老人ホームは全国津々浦々に存在しており、なおかつ様々な形態のものが存在する。その老人ホームではどのような現場なのか、本書の著者は長年老人ホームの介護職員として働いており、今は施設の紹介センターのスタッフで働いている。様々な老人ホームの取材と自らの経験を通じて、老人ホームの「リアル」を本書にて映し出している。ただし本書は2019年当時のことであり、新型コロナウイルスが広がりを見せた今は定かではないことは念頭に置いた方が良い。
第1章「老人ホームで暮らすと言うこと」
昨今では様々な業界にて「人材不足」と言うものが出ている。老人ホームをはじめとした介護業界もその一つであるのだが、その理由はどこにあるのか、そして老人ホームに入所される方々の心境はどうなのか、そのことについて取り上げている。
第2章「リアルに疑似体験―老人ホームの24時間」
本章は本当の意味で「リアル」と言う言葉がよく似合う章である。老人ホームの1日のルーティーンと、不測の事態の「実態」についてを取り上げている。特に不測の事態になったときの体験談は非常に生々しく、なおかつ介護と医療の「現実」が映し出されている。もちろん老人ホームによっては形態が異なるため、本章のような実態が全部ではない、と言った方が良いかも知れないが、何も知らない私に取っては衝撃の現実を突きつけられたと言うほかなかった。
第3章「老人ホームで働く介護職員って、どんな人?」
介護職員で働く方々はどのような人か、と言うよりも、介護職員の採用から研修と仕事の実態についてを取り上げている。特に実態として、
私が現役だった頃と比べると、今の老人ホームの仕事は、相対的に窮屈になっているということです。コンプライアンスの問題一つとっても、昔とは比べものにならないくらい細かく規定されています。おまけに、ハラスメントの類(たぐい)も異常に強化され、仕事上、やりにくいことも多くなっています。pp.105-106より
とある。人を介する仕事である以上繊細に行っていく必要があるのだが、それ以上のことを求められてしまう環境にあるという。また著者はこのように私をはじめとした読者に訴えている。
「介護職員の質が下がった」と言われて久しい昨今。たしかにそのような事実はあると、私は思います。しかし、そのすべてが介護職員個人だけの問題とは、どうしても思えません。私の経験と流儀で言わせていただけるのであれば、介護職員は入居者が育てるもの、育てられるものだと思っています。p.110より
介護職員が仕事に「挑戦すること」に対し、許容するチャンスを与えてはいただけないでしょうか。p.111より
本章ではそれ以上の訴えがあるのだが、少し抜粋している。介護職員の方々、老人ホームの入居者と家族との関わりの中でどのような体験があったのか、詳細はわからないが、人と関わっている以上、萎縮してしまう現実があり、挑戦はおろか萎縮しかできない窮屈な環境にある実態がどうしても見えてしまう。
第4章「エピソード集 老人ホームで起こるさまざまな出来事」
本章では実際に老人ホームで起こった出来事を18個紹介している。いずれも私の想像を遙かに上回るものもいくつかあったこと、また、介護の現実と、入居者のエピソードなど、時には暗い現実を、時には笑い、涙、含蓄など悲喜こもごもといったエピソードが明かされている。
老人ホームに入居されている方を家族に持つ方、あるいはこれから老人ホームの入居を考えている方であれば是非読んで欲しいと強く思う一冊である。これほどまで老人ホームの「現実」が映し出された一冊は存在しない。ましてやその入居者も家族も、介護職員たちの姿と現実、そしてその方々からのメッセージが込められている。
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