全国学力テストはなぜ失敗したのか――学力調査を科学する

「全国学力テスト」は今もなお行われている。しかし「全国学力テスト」は広義と狭義によって分かれており、広義の場合は1956年から11年にわたって実施されたこと、さらに2007年から始まるまでに、度々名前を変えて行われたものも含まれる。狭義になると2007年からスタートした同名のテストのみを指している。

本書はこの2007年から行われた全国学力テストに関しての批判を行っている。なぜ「失敗」と断定したのか、学力テストは必要なのか、そして必要とするならば何を改善すべきなのか、そのことを論じている。

第1章「全国学力テストをめぐる混乱」

これはメディアでよく取り上げられていたのが、都道府県別の競争に使われること、そして正答率などを公表することによって、教育の尺度はどうなっているのかという議論の材料にしてしまったことにある。

第2章「全国学力テストの歴史と概要」

本書は全国学力テストの歴史だが、ここで「広義」における学力テストの歴史を取り上げている。冒頭でも取り上げたものになるが、11年間行われた最初の学力テストはある「事件」によって、中止となった。元々日教組をはじめとした団体が学力テストに対して批判的なシュプレヒコールがあり、中止を求め、なおかつ裁判所にも憲法違反として訴えたが、1966年に旭川地方裁判所が初めて違法と認定したことにある。それをきっかけに反対闘争が強まり、中止となった。もっとも背景には当ブログのシリーズ「1968年を知らない人の『1968』」でも取り上げたのだが、学生闘争や六十年安保闘争といった新左翼における闘争が絡んでいる部分も考えられる。その後は全国規模では中断となり、不定期かつ地方で行われたのだが、ゆとり教育などの要因における学力低下などが叫ばれ、始まったとされる。

第3章「PISAから学ぶ学力調査の科学」

そもそも「学力低下」を指摘した要因としてはPISA(Programme for International Student Assessment・OECD生徒の学習到達度調査)における世界的な学力評価がある。特にリテラシー調査で上位に上がっていたものが、年が経つにつれ順位が下落してしまったことへの危機感が挙げられる。同時にゆとり教育への批判もこの頃行われていた。

第4章「全国学力テストはなぜ失敗したのか」

なぜ全国学力テストを「失敗」と断定したのか、そこには、

大規模学力調査の知見をもとに現行の全国学力テストの設計を見直したとき、最初に戸惑うことは、おそらくそれが何の学力を測っているのかわからないという点です。p.97より

とある。何のための「学力テスト」なのか、そして教育問題の解決に向けてどのような役割を担っているのか、というのが何もないということにあるという。

第5章「全国学力調査を再建するために」

そもそも何のための「学力テスト」なのかと言うのに立ち返る必要がある。学力低下を正すことであれば学力テストを行う必要なく、むしろ教育の質・量を上げるべきである。ではなぜ必要になるのか、再建を行うためにはそこを国民にもわかりやすく説明し、議論を深めることが必要ではないかとある。

もっとも学力テストは必要かも知れない。ただそれは毎年のように何のためにテストを行うか、そしてどのように学力を測り、改善を行っていくのか、地続きで行っていく必要があるのだが、現時点でその方向性がないに等しい。だからでこそ、このような批判があるのでは無いかと考える。