危機対応と出口への模索―イングランド銀行の戦略―

経済は日々刻々と変化をしている。その変化は許容できるものなら良いのだが、格差を広げる、あるいは実感なき景気を生み出すなど、好まざる変化を起こすようなことがある。

その経済はコントロールできない所もあるのだが、ある種コントロールを行っている所もある。それが中央銀行の存在である。日本では日本銀行が挙げられるのだが、経済的な役割を果たしているかは論者によっては首をかしげていることだろう。

さて本書はイギリスの経済を支える中央銀行としてイングランド銀行がある。イングランド銀行はかつて失敗や政策のミスで危機に瀕していたのだが、その危機に対して対応を行い、危機を脱した事例がある。本書はその事例をもとにして中央銀行としての危機管理を取り上げている。

第1章「カーニー体制下のイングランド銀行金融政策」

本章で取り上げる「カーニー体制」は2013年から2020年まで総裁だったマーク・カーニーである。ちなみにカーニーは純粋にイングランド人ではなく、カナダで生まれカナダ銀行の総裁にもなった人物である。もっともイングランド銀行総裁に就任する前がカナダ銀行の総裁で、イングランド銀行総裁と共に退任した経歴である。またイングランド銀行にとっても、初めてとなる外国人総裁であった。

当時のイギリス経済は危機に瀕しており、2008年にあったリーマン・ショックの危機から立ち直れずにいた。その時にカーニーが行った対応策として「量的緩和政策」であった。

第2章「貸出促進策としてのFLSの失敗」

FLSとは「証券貸出スキーム(p.36より)」とある。これは貸出促進策としてカーニーが就任する前からあったのだが、就任してからはある程度マイナーチェンジを行い、中小企業への融資を促進するために行った。しかし思っていたほどの動きが見られず、失敗に終わった。

第3章「イングランド銀行の量的緩和からの出口政策について」

量的緩和政策を行うとなると、もちろん金融・経済面での促進につながるのだが、その促進をいつまでやっておくわけにはいかない。そのため終わらせるための「出口政策」もまた必要になってくる。ではイングランド銀行における出口政策はどのようにつくられ、変化していったのかを取り上げている。

第4章「量的緩和とイングランド銀行財務」

ここではそもそもイングランド銀行はどのような財務状況なのか、2000年代の時から直近までの損益状況などのバランスシートをもとにして、財務状況と量的緩和政策の効果も含めて分析を行っている。

第5章「中央銀行デジタル通貨(CBDC)の検討」

中央銀行だと通貨となる「銀行券」の発券や経済政策ばかりに目が行くのだが、もう一つの役割として「銀行の銀行」がある。もっともこの「銀行の銀行」が最も重要な要素としてあるのだが、元々小切手が中心だったものからデジタル通貨として流通するように検討を行っていた。もちろん信用リスクやビットコインなどの仮想通貨にはらんでいるセキュリティ面や流動性といったものもあったが、現に2015年にビットコインフォーラムのメンバーとなり、現在もデジタル通貨実現への検討が進んでいる。

第6章「中央銀行の独立性再考―新たな環境のもとで―」

イングランド銀行に限らず、中央銀行には「独立性」があるのだが、実際には政府の意見の執行機関の一つになってしまっている所も少なくない。ではどのようにして「独立性」を担保すべきなのか、そのことについて取り上げている。

カーニーは昨年退任し、金融顧問や資産運用会社の副会長を務めている。カーニーがもたらされた政策によって経済的にも立て直しを行った。しかしその一方でイギリスのEU離脱(ブレグジット)に対して反対意見を述べると行ったこともあった。カーニー体制の中で量的緩和政策などの経済政策が行われたのだが、その評価はどうなのか、まだ退任したばかりであるため、評価はしにくいのであるが、ひとまず「何を行ったのか?」と言うところを知るには格好の一冊と言える。