社会の仕組みは途方もなく複雑である。それは数学的な観点から説き明かすにしても、解き明かせるような公式などがないためである。
しかしできないのはあくまで「社会全体」であるだけで、社会の仕組みの一部を取り上げるにはゲーム理論などにて割り出すことができる。本書はゲーム理論をはじめとした数学的な理論のほかに、どのように社会の仕組みが成り立っていくのか、そのなかに「信用」がどのようにして入ってくるのかを取り上げている。
1.「協力の進化研究の基礎知識~進化ゲーム理論~」
ゲーム理論とは何かというと
利害の対立する事態にある集団の行動を数学的にとらえる理論。ゲームにおけるプレーヤーの行動様式をモデルにしたもので,経済現象の分析や軍事的シミュレーションなどに応用される。ゲームの理論。「大辞林 第四版」より
とある。ゲーム理論は行動に関してを数学的にモデル化したものであるため、けっこう難しい(かくいう私も大学生の時から学び始めたが未だに理解できない)。しかしゲーム理論は行動をもとにしているため、協力にしても、社会にしてもゲーム理論で当てはめられるような所もあり、本章ではそのことを取り上げている。
2.「協力を進化させるメカニズム」
ゲームの中ではネットゲームでの「協力プレイ」を連想するのだが、協力プレイを行うと、ゲームにもよるのだが、パラメータが変わるような事があるのかもしれない。「かもしれない」と書いたのは私自身ネットゲームは一切やっていないので、周囲の友人がやっている話を聞いたときにそう思っただけである。
ただ実際の行動にも協力をすることによって信用度が上がるメカニズムがあり、どのようにして変わっていくかを取り上げている。
3.「グループメンバーの選び方と協力の進化」
よく学校や団体などで「グループ」になることがあり、そこで協力を行うケースもある。そのグループ化をすることによって、「協力」のあり方はどのように進化を遂げていくのか、そのことについて取り上げている。
4.「頼母子講における協力の進化」
「頼母子講」は「たのもしこう」と読み、
互助的な金融組合。組合員が一定の掛金を出し、一定の期日に抽籤または入札によって所定の金額を順次に組合員に融通する組織。鎌倉時代から行われ、江戸時代に流行。無尽(むじん)。無尽講。「広辞苑 第七版」より
という意味である。難しいように見えるのだが、協力・互助システムの意味そのものである。本章ではこの先述の広辞苑の意味にも書いてある頼母子講そのものの歴史から、なぜ頼母子講が成り立ち、協力に進化を遂げたのかを追っている。
5.「頼母子講のフィールド調査と被験者実験」
新潟県の佐渡島にて実際に赴き、頼母子講がどのように作られていったのかを実際に研究を行ったところである。地区ごとにどのような文化が栄え、協力のモデルが生まれ、頼母子講へとなっていったのかも検証を行っている。
6.「保険制度の起源と相互援助ゲーム」
よくある生命や災害などの「保険」制度についても、この「協力」が成り立つ。しかしよくある保険会社の保険商品と言うよりも、むしろ会社などの集団で、メンバーが投資を行い、もしものことで備える、いわゆる「積立」と呼ばれるなかでの「相互援助」をゲーム理論にて取り上げている。
7.「組織の分業における協力の進化」
「組織」には色々な人がおり、役割も異なってくる。それが「分業」として成り立っているのだが、その分業を行う事によって、協力の進化はどうなっていくのかをシミュレーションしている。
8.「噓の噂と信用」
「噂」は一度出てきて、増えてくると、瞬く間に広がっていく。「人の噂も七十五日」という諺もある通り、一度出てくるとほとぼりが冷めるまでに数十日かかる。
しかしその噂もオオカミ少年のように吹聴しまくってしまうと、信用を失い、ダレも信じなくなる。噂をどこまで信じるか、噂を出す人、受ける人とで信用度、広がりも変わってくる。
9.「ミクロネシアで「協力」と「信用」を探す」
協力や信用モデルの研究の一環としてミクロネシアに赴いた事を記している。ミクロネシアの生活・文化の中でどのような協力や信用のモデルがあったのかを取り上げている。
本書は協力や信用を言葉で捉えると言うよりも、ゲーム理論を用いて解析を行っている一冊である。ゲーム理論とは何かがわからないと難しいが、いくつもの図式があるため、ある程度まではわかるようになっている。具体的になるとゲーム理論初心者は入門書と併せて読んだ方が良い。
コメント