ゲンロン戦記-「知の観客」をつくる

著者は批評家であり、社会的なこと、さらにはサブカルチャーにまつわることについて批評を行う立場であるのだが、本書はそれとは大きく異なり、今から11年前に設立した「株式会社ゲンロン」の設立から現在に至るまでの始まりと苦闘、そして成長を自ら綴った記録である。

第1章「はじまり」

本章では株式会社ゲンロンがなぜできたのかについて取り上げている。しかしそれ以前に著者自身が批評家になったばかりの頃から2010年の設立に至るまでの社会背景と、自ら持つ「オルタナティブ」を出会い、形にするために創業することになった。

第2章「挫折」

創業して「思想地図β」を刊行し人気を博したが、幹部の横領により著者自らが代表を就任することになった。やがて東日本大震災、原発事故などもあった。そして自ら持つ思想をお体系すべく、2012年に「日本2.0」を刊行したが、刊行までのコストを膨大にしたことがある。売れたのだが、損失の方が大きかった。「日本2.0」の他にも様々な出版を行った結果、経営危機陥った。本章ではその反省の弁を綴っている。

第3章「ひとが集まる場」

出版物で潰れなかった一つの要因としては「ゲンロンカフェ」と呼ばれるイベントを行ったことにあった。特にリアルでのゲンロンカフェだけでなく、当時は画期的だったニコニコ生放送などでの有料配信を行ったことにより、売上を伸ばすことができた。しかしその配信の中にもトラブルがあったという。

第4章「友でもなく敵でもなく」

ゲンロンでは刊行物やカフェだけでなく、「ツアー」も事業としてある。本章ではチェルノブイリや福島へのツアー、つまりは「ダークツーリズム」を行ったことについて取り上げている。

第5章「再出発」

軌道に乗って行こうとした矢先に、様々なトラブルが起こり、2018年末に著者自身代表を降りて、別の人が代表に就任した。著者曰く「第3期」と定義づけている。その第3期の中でも色々な事があったが、それでも「友の会」といった有料会員などの収入で右肩上げにすることができた。

第6章「新しい啓蒙へ」

2020年になると新型コロナウイルスの感染拡大により、リアルの開催やツアーが難しくなった。特にカフェのイベントは全てオンライン上で行う事になったのだが、ゲンロンでは独自の動画プラットフォームの開発まで行った。

「ゲンロン」は創業して11年を迎えることになるのだが、著者自らの言論活動はもちろんのこと、ゲンロンの様々な媒体を通して、双方向的に関わっていくことを主眼としてあるのかもしれない。言論の世界に生き新たな「ゲンロン」を生み出していく未来は面白いものかもしれない。