坂下あたると、しじょうの宇宙

本書の主人公の友人である坂下あたるは高校生でありながらも文才もあった。特に詩をつくる才能に秀でており、雑誌をはじめとした紙上で詩を掲載し、人気を博している。本書のタイトルの後半に「しじょう」とあるのだが、「詩情」を「紙上」で表現し、「至上」の評価を得るといった3つの熟語をあわせてひらがなにしているようなものである。

ところが、インターネット上にある偽アカウントが詩を発表した。そのアカウントはAIであり、全く同じ詩をつくるどころか、あたるを超えるような詩をつくったことで一躍有名になった。主人公はそれを打破すべく詩を書くことになった。

私自身も書評を通して、色々な文章を書くのだが、私自身が文才があるかと言うと、他人の評価なので、自分の中ではわからない。もっとも文章を書く世界にはもちろん才能がある。しかしながらその才能を伸ばす、あるいは高めるとなると、どうしても書き続けるしか道がない用に思えてならない。細かいテクニックであれば本や人の教えで身につけられるのだが、どんなに打ちひしがれても「書き続けること」。そのメッセージを本書の物語で痛いほど伝わされる。