生きのびるための流域思考

「流域思考」と言うとけっこう学術的でとっつきにくいイメージが持たれる野田が、実際には台風・洪水に対しての災害対策、および防災のために川の流れを知り、対策を行う考え方を表している。毎年のように台風、さらには豪雨などによる洪水被害は後を絶たず、さらには河川の氾濫も起こっている状況にあるため、流域思考は重要な考え方とも言える。本書はその河川の氾濫をはじめとした災害対策における「流域思考」とは何か、そしてそしてどのような対策が必要かを取り上げている。

第一章「流域とはなにか」

川の流れや流域は、各地域の川それぞれであるが、それだけでなく上流・下流など場所によって川の細さ、坂の勾配などによって流れの速さも異なってくる。ではどのようにして流域を算出するのか、そして雨がどれくらい降ったときにどれくらいの流れの速さになり、なおかつ増水するかなどを取り上げている。

第二章「鶴見川流域で行われてきた総合治水」

流域思考における治水対策はどこでも行っているのだが、本章ではその代表として東京都・神奈川県を跨いで流れる「鶴見川」がある。この鶴見川はかつては「暴れ川」と名乗るが如く、何度も河川氾濫が起こり、洪水被害を起こしてきた。河川の決壊・浸水を観ていくと戦後だけを見ても数多くあるのだが、代表的なものとして1958年の狩野川台風、1966年の台風4号、1976年の台風17号、1982年の台風18号における大規模浸水がある。

なぜ何度も決壊し、浸水が起こったのか。雨量の多さもあるのだが、実は地形的特性も原因としてあり、それに対しての対策が必要だった。実際に対策が行われ始めたのは1985年からのことであり、それぞれの地域ごとの治水対策を行った事により、大規模な浸水を免れるようになった。

第三章「持続可能な暮らしを実現するために」

社会は変化する。その変化に対応することも大事だが、気候変動の対策を進めていく一方で、その変化に「対応」することも必要である。ではどのようにして変化に対応を行っていくべきか、本章ではそのことについて取り上げている。

本書は個人的な対策と言うよりも国・地方自治体と地域的な対策において、このような思考が必要と言うことを提言した一冊である。昨今ではコロナ対策や経済政策などが中心となっているのだが、民の生活の中で必要な要素は数多くあり、治水対策もその一つとしてある。近年はその重要性が増してきており、毎年のように台風・豪雨があるために、河川の氾濫や浸水が起こりやすい地域にとっては考えるべきものと言える。