悲劇の世界遺産 ダークツーリズムから見た世界

先日、新潟の「佐渡島(さど)の金山」を世界遺産登録について話題となった。特に過去の歴史的な遺産について登録になるかどうかの論議もあり、私の住んでいる鎌倉市も世界遺産登録の推薦があったのだが、残念ながら「不登録」となった経緯もあった。

また世界遺産の中には原爆ドームやアウシュビッツなどネガティブな面での遺産として登録された事例もあり、負の側面を忘れないために旅行を通して見聞きすることを「ダークツーリズム」と呼ぶ。なぜ悲劇的なところが「世界遺産」として登録され、ダークツーリズムが行われるようになったのか、その現状と経緯を取り上げている。

第1章「世界遺産制度の概要とダークツーリズムの考え方」

「世界遺産」とは、

1972年にユネスコ総会で採択された世界遺産条約に基づき「世界遺産リスト」に記載された、「顕著な普遍的価値」をもつ建造物や遺跡、景観、自然のことです「世界遺産検定」の「世界遺産とは」より抜粋

を指す。また、

人類が作り上げた「文化遺産」と、地球の歴史や動植物の進化を伝える「自然遺産」、その両方の価値をもつ「複合遺産」に分類されます同上より抜粋

ともある。

様々な「歴史」において正負双方の側面から未来に向けて遺すべきものを表している。ちなみに自然遺産は当然有形しかないのだが、文化遺産には史跡などの有形はもちろん、和食などの文化そのものの無形のものも世界遺産として取り上げられる。

日本では1992年に法隆寺や姫路城、白神山地、屋久島が初めて登録されたことを皮切りに数多くのもの・ことについて世界遺産に登録された。もちろんその中には原爆の歴史をしるための原爆ドームはもちろんのこと、第5章でも紹介するが長崎における隠れキリシタンに関しての史跡など負の側面も世界遺産として登録され、ダークツーリズムとして扱われている。

第2章「アウシュビッツとクラクフから考える」

ダークツーリズムは日本に限らず、世界中で存在している。特に有名な所としてナチスドイツのアウシュビッツがある。場所はポーランドのクラクフ郊外に存在しており、ナチス時代の負の歴史を伝えている。悲劇的な側面で言うと、日本でも長崎の長崎刑務所浦上刑務支所が存在しており、こちらも大東亜戦争における負の歴史を伝えている。

第3章「産業遺産の光と影」

元々産業革命は欧州において起こり、やがて日本に伝わった経緯がある。その日本において産業革命の象徴となった史跡も数多くあり、中には世界遺産として登録されている。産業革命は経済的な発展として光の側面で描かれることが多いのだが、公害や労働の面での「影」も存在する。その中でも特に「影」の面において世界遺産とされている史跡を紹介している。

第4章「ダークツーリズムで巡る島」

「島」は、かつて犯罪において流刑地、あるいは牢獄がつくられる場所にもなっており、中には負の側面での世界遺産に登録されている。牢獄で言えば南アフリカのロベン島やオーストラリアのタスマニア島のポート・アーサー刑務所などが挙げられる。流刑地としても、韓国の済州島が挙げられている。

第5章「潜伏キリシタン関連遺産を観る眼」

2018年7月、世界遺産に登録された所として「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」がある。江戸時代初期に起こった、島原・天草一揆の舞台となった場所であり、負の側面がある。ではどのような所が世界遺産として登録され、どのように世界遺産の登録期間であるイコモス(ICOMOS・国際記念物遺跡会議)に伝えられていったのか、実際に赴いたところを取り上げている。

第6章「復興のデザイン」

戦争からの「復興」を象徴する施設、あるいは戦争を風化させないために建てられたモニュメントも存在している。国内外においてそれらはどのようにデザインされ、何を意味しているのかを見ている。

第7章「コロナ禍で考える世界遺産」

新型コロナウイルス感染拡大に伴い、旅行を行う事が難しくなっている。その影響からか旅行業界は深刻な打撃を受けている。そのようななかで国内外においてダークツーリズムを含め、観光の可能性はどこにあるのかを探っている。

歴史には光の面もあれば影や闇といった負の面も存在する。その負の面をどのように伝えていくべきか、そこにダークツーリズムがあり、世界遺産がある。とはいえ世界遺産は観光的な価値があるかどうかは場所によってまちまちである。世界遺産であろうがなかろうが「歴史」を知るにあたってのダークツーリズムは必要なものかもしれない。

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