眼球達磨式

SF

本書の著者は本作でデビューし、第58回文藝賞受賞を果たしたが、同年10月に事故で逝去した。そのためデビュー作であると同時に唯一世に出た作品となった。また本書の上梓自体も昨年11月を予定していたのが今年の3月に延期となるなど、違う方向で話題となった。

さて本書の物語はある種SFの要素も入っているような感じである。とある移動式カメラがコントロールから外れて自走することから物語が始まる。狭いアパートの所から外へ出て、街のありとあらゆる所まで冒険する。

もちろん機械であるが、その機械にて映し出される情景や人間模様がなんとも面白味があり、よく鳥の目の「俯瞰」という言葉があるのだが、本書はその逆である。下から世界を見ており、それがどのように見えるのか読み手それぞれの判断に委ねられている所も魅力的である。独特な観点で、なおかつ表現で描かれる小説が今後見られなくなることは小説の世界においても大きなマイナスに他ならない。