あいつゲイだって アウティングはなぜ問題なのか?

今となってはLGBT問題解決に向けて遅いながらも進んでおり、なおかつ多様性を受け入れる「ダイバーシティ」も官民問わずに浸透し始めている。しかし中にはそれに抗する人もおり、なおかつLGBTについて暴露をするいわゆる「アウティング」と呼ばれることも度々起こっている。

その中でも大きな転機となったのが本書で取り上げる「一橋大学アウティング事件」である。なぜ事件が起こったのか、そしてそれがきっかけとなり、法整備やこれからどうなっていくのかを取り上げたのが本書である。

第一章「一橋大学アウティング事件――経緯」

2015年4月に一橋大学法科大学院にの男子学生が同性の同級生に対して恋愛感情を抱いていたが、その同級生がLINEグループを通して暴露されたという事件である。その暴露により、男子学生は心身に変調をきたし、パニック障害に陥る。その後転落事故死した。

第二章「アウティングとは何か」

本書のタイトルにある暴露は本書だけでなく、LINEはおろか、不特定多数にて見られる掲示板やブログ、SNSなどでも行われている。しかもアウティング自体はここ最近活発化したわけではなく、昔からのことであり、古くは大声で暴露され不特定多数に伝播されることもあれば、有名人の中には週刊誌などのメディアで暴露されることもあった。

しかしアウティング自体、意味どころか言葉すら知られていないこともあれば、性自認をしていながらも、アウティングされ、批判・中傷にさらされることもある。

第三章「繰り返される被害」

「アウティング」は大小関わらず、現在でも起き続けている。しかも悪意を持ってアウティングを行う人もいれば、「良かれと思って」アウティングする人もいる。また性自認を行っている人がカミングアウトする事例もあるが、それによる批判も起こったこともある。性自認にたいしてのコントロール、いわゆる「ゾーニング」についても本章にて言及している。

第四章「一橋大学アウティング事件――判決」

このアウティング事件については2つの裁判があった。一つは男子学生の遺族と同級生の間、もう一つは男子学生の遺族と一橋大学側の裁判である。

前者は和解が成立し、後者は最終的に遺族側の敗訴となったが、アウティングの違法性について指摘した日本初の判例となった。

第五章「アウティングの規制」

「アウティング」の規制は事件のあった一橋大学のある国立市にて2018年の4月に「アウティングの禁止」を盛り込んだ条例が初めて施行された。もっともこの条例はどのような条文を盛り込んだのかを取り上げている。

第六章「広がる法制度」

国立市の条例が起点となり、全国各地にて条例の制定・改正により、アウティングに関しての禁止を含めた規制の動きも見られるようになった。また法律の面でも「パワハラ防止法(改正労働施策総合推進法)」の成立により、パワハラだけでなく、アウティングも言及されるようになった。

第七章「アウティングとプライバシー」

アウティングの問題はけっこう「プライバシー」の部分に関わってくる。特にプライバシーは人格的な秘密にあたる部分であるものの、特に「プライバシー」に関しての規制は法律に明文化されていない。とはいえ、2015年に個人情報保護法が改正されたときに「要配慮個人情報」として扱われているため、実質プライバシーの保護や規制が明文化と言える。

第八章「アウティングの線引き」

アウティングは価値観やプライバシーに関わるものでありながら、線引きは難しい。カミングアウトする人もいれば、墓場まで隠し通したい人もいる。ではどのように線引きを行っていくべきか、アウティングに関しての事例と共に考察を行っている。

第九章「アウティングのこれから」

アウティングや差別を規制する法律はあれど、禁止にする法律はまだ整備されているとは言えない。しかし法整備に関しての動きは見せているのだが、反発も大きく法案提出自体が見送りとなっている。

2015年の事件を契機にアウティングと言う言葉が知られるようになり、なおかつ官民問わずに、差別や偏見をなくしていく動きを見せている。しかし完全になくなることは難しい、というか不可能と言うほかない。様々な人・価値観・自認のある中でどのように「受け入れる」かが大きな要素であり、法や条例でいくら禁止にしても限界がある。アウティングは撲滅すべきであるが、多様性を「受け入れる」ことについて国・民間、もっと言うと私たち国民のなかで考え、持つべきではないかと本書を読んでそう思った。