ジョン・ロールズ-社会正義の探究者

今でこそ、政治哲学の議論は盛んに行われているのだが、アメリカでは第二次世界大戦直後は盛り上がりに欠けていた。イギリスの哲学者であるアイザイア・バーリンでさえ論文で吐露するほど停滞した政治哲学の世界に大きな風穴を開けたのが、本書で紹介するジョン・ロールズである。

元々アメリカ陸軍の兵士として第二次世界大戦の戦地を渡り歩いたのだが、なぜ彼は兵隊を辞めて政治哲学に風穴を開けたのか、ロールズの生涯と共に追っているのが本書である。

第一章「信仰・戦争・学問 思想の形成期」

ジョン・ロールズは1921年、アメリカのメリーランド州ボルチモアにて生まれ、第二次世界大戦が始まった頃にあたる1939年にプリンストン大学に入学し、そこで哲学に出会う。しかし卒業後は冒頭にも述べたとおり、陸軍に入隊した。そこで後の正義論や政治哲学の礎となるような出来事があった。1945年8月6日における広島への原爆投下である。

この頃から軍隊に疑問を抱き、自ら除隊した。その後また大学に戻り、哲学博士号を得た後、教鞭を取り、オックスフォード大学への留学、そしてハーバード大学をはじめとしたいくつもの大学で教鞭を執った。

第二章「『正義論』は何を説いたのか 現代政治哲学の基本思想」

ジョン・ロールズの代表的な著作として1971年に刊行された「正義論」がある。この背景としてはアメリカにて「公民権運動」が行われ、さらには「ベトナム戦争」への参加もあった。さらには1960年代末にあったスチューデント・パワー、いわゆる「学生運動」がアメリカでも起こり、それが背景となり、いまある正義論に対して批判を行いつつ、いまある「正義」とは何かを紐解いている。

第三章「「リベラルな社会」の正統性を求めて 『政治的リベラリズム』の構想」

「政治的リベラリズム」は1993年に刊行されたものである。もっとも1971年から22年が経過しているが、この中で批判的な論説も多数出てきたことから、それらの批判に対しての反論・返答も行っている。

またこの「政治的リベラリズム」以前に、リベラリズム、さらには政治に関しての議論を行う論文を次々に発表しており、それを構成・編纂したとも言える。

第四章「国際社会における正義 『万民の法』で構築した現実主義」

国際社会においてどのように「正義」を議論していったのか、また正義における戦争・人権・義務などをどのように論じたのか。本章では「万民の法」をもとに取り上げている。

第五章「晩年の仕事 宗教的研究と『戦争の記憶』」

晩年には、自ら哲学の大きなきっかけとなった「広島への原爆投下」について50年の節目の際に、それが不正であったこと、また大東亜戦争をはじめとした戦争の開戦・交戦における正義についても論じた。また「法」にまつわる「諸民衆の法」を刊行したがその背景もまた取り上げている。

正義に関しての議論はここ最近ではマイケル・サンデルが取り上げられているのが有名である。しかし私自身は「正義」を殊更議論するつもりはない。もともと「正義」と言う言葉が嫌いである。しかし正義のあり方は日々刻々と変化しており、多くの学者が正義について議論を行っている。もちろんジョン・ロールズも例外ではない。正義がどのように変容し、議論されていったのか、ジョン・ロールズの生涯を通して見えてくるものがあるのでは無いだろうか。