降伏の時 元釜石捕虜収容所長から孫への遺言

大東亜戦争が終戦し、今年の8月15日で77年を迎える。戦争を体験している方々が亡くなっていき、戦争を知るきっかけも資料などでしかわからなくなりつつもある。もちろん戦前・戦後に関しての史料は次々と出てきており、あの戦争は何だったのかは今も問われ続けている。

本書はかつて岩手県釜石市にあった「連合軍捕虜収容所」の所長として生き、終戦を迎え、戦犯として巣鴨プリズンにも収監し、釈放後は新聞記者として活躍し、1988年に生涯を閉じた稲木誠氏の手記をもとに、その孫が手記をもとにあの戦争と当事者たちとの関わりについてを綴っている。

第1部「降伏の時」

本章は本書の核となる部分である。1945年8月15日の終戦から、捕虜の引き渡しまでの1ヶ月間を綴っている。捕虜たちと所長だった稲木氏との関わり、そして勝者と敗者の姿、そして所員と捕虜たちとの衝突、多くの感情が入り交じった手記が克明に記されている。あまりにも生々しく記されているおり、終戦からの1ヶ月間がどれだけ激動だったかと言うことがよくわかる。

第2部「フックさんからの手紙」

本章はかつて存在した週刊誌「週刊時事」にて1984年9月~11月にかけて連載されたものである。オランダ人で当時連合軍捕虜収容所の捕虜だったヨハン・フレデリック・ファン・デル・フックと稲木氏と書簡を通じて語ったものである。その書簡の中にはお互い収容所の捕虜・収容所所長時代における写真もあった。連合国対日本という対立と、捕虜・収容所所長の関係を超えての親交が事細かに綴られていた。

第3部「遠い記憶の先に終止符を探して」

本章からは孫の小暮聡子氏が綴っている。稲木誠の孫として、捕虜たちが見た風景、さらには捕虜たちの体験など、小暮氏自身がアメリカを渡り、元捕虜たちの取材を通して見えてきたことを取り上げている。

第4部「過去から未来へ」

そして今年、元捕虜とその親族の方々との関わりは絶え間なく続いている。新型コロナウイルスの感染拡大もあったが、それでもメール・手紙などを通して関わっていること、祖父の代から通して過去を見て、これから来る未来を見つめている。

戦争は残酷なものである。それは勝者・敗者関わらずである。そのことが本書をとおしてありありとわかる。戦争を起こしてはいけないということは大切であるのだが、そもそも「戦争とは何か」「大東亜戦争とは何だったのか」と言うことを見つめ、考えることもまた大事である。その考えるための記録の一つとして本書がある。