春を待つ海ー福島の震災前後の漁業民俗

東日本大震災から11年半経過した。復興の道はまだ「道半ば」というだけあり、次々と復興は果たしつつあるものの、まだまだ完全に復興するまでは遠い。もっとも10年以上経っており、「元に戻る」と言うことは時代の変化もあってか難しいという他ない。

本書は震災の被害が著しい福島県の漁業民俗を取り上げている。民俗学はフィールドワークが主であるのだが、著者自身が調査地である福島県新地町に住み、漁業を行いながら震災前後における漁業民俗の変化を調べている。

第一章「シタモノと食い魚」

本章のタイトルにある「シタモノ」は漁業ではけっこう言われていることばで「売りものにならないもの」「価値のないもの」などを表している。漁獲された中で振り分けられ「イキモノ(活魚)」や「シニモノ(鮮魚)」などは売られるのだが、「シタモノ」になると海に戻されることがほとんどである。もちろん漁獲する目的の魚の中にもシタモノになるケースも少なくなく、海の中で他の魚の餌になる、つまりは「食い魚になる」ことも要因としてある。

第二章「魚を売りに行く」

漁獲された魚を市場や小売店まで行く中で、どのような道を辿っていくのかを取り上げている。特に魚市場へのプロセスが震災前と震災後とで変化があるという。

第三章「春雄さん半生記」

著者が調査のために新地町に行く際に大きく世話になった人物として「春雄さん」がいる。本書の冒頭でも出会いについて記してあるのだが、本章ではその「春雄さん」がどのような人生を辿っていったのかを取り上げている。

第四章「新地の沿岸漁業」

新地町は浜通りの北部に面しており、漁業も盛んに行われている。新地町ではどのような最中を産物としているのか説明をしつつ、沿岸漁業においての歴史、もちろん船の進化などもあり、なおかつ新地町ならではの風習も存在する。

第五章「新地の漁業民俗」

新地町にはいくつかの漁場があり、漁を行う時期も限られてくる。その時期の中には魚・貝など、どのようなものが獲れるのかもあるが、こちらは第四章にて詳しく書かれている。では本章はというと年間を通しての漁期のほかに、禁漁の時期も含めて行われる年中行事とその意味についてが中心である。

第六章「寄りものとユイコ」

「寄りもの」の意味として

浜辺に打ち寄せられる材木や海草・魚介類などの称「大辞林 第四版」より

とある。辞書としてはこの意味であるが、それにまつわる伝承もあり、新地町を含めた浜通りには数多くあるという。その中で新地町にはどのような伝承があるのか、また助け合う人の意味を持つ「ユイコ」のならわしを追っている。

第七章「海辺のムラの災厄観」

第五章において取り上げた年中行事の中には災厄を振り払い、安全に漁業を行えるための儀式もある。その儀式を行う中である「災厄観」とはどのようなものなのか、そのことを本章にて列挙している。

第八章「東日本大震災からの漁業」

東日本大震災を機に漁業はどのように変わっていたのか、また漁業にまつわる現状を綴っている。

震災から11年半経過し、漁業に戻る人もいれば、廃業する人もいる。また法律を含めた社会の変化によって漁業が続けにくくなっている人も少なくない。とはいえ漁業自体は長い歴史を中で変化に対応しながら、今日まで続けられた。もちろん震災によっての変化もあり、なおかつこれからの未来の海はどうなっていくのかはわからない。本書はその変化と伝承がよくわかる一冊である。