「学びほぐし」が会社を再生する―企業とファンドの組織変革物語

「学びほぐし」と言う言葉は初めて聞く。企業にしても人にしても「学ぶ」ことによって成長するのだが、「学びほぐし」と言う言葉はなぜ必要なのか。そもそも根本的には「学びほぐし」は横文字で「アンラーニング」を表しており、四字熟語で言うと「学習棄却」とも表す。

では学びを「捨てる」べきかと言うと、その通りであるのだが、ただ漫然と「捨てる」のではない。学び続けることによって価値観や知識は醸成されるのだが、それが「凝り固まる」ことによって硬直化する恐れがある。これでは新たな変化が見込めなくなる。それを打破するために、硬直した学び・価値観を見直しながら捨てていき、新しい知識・価値観を取り入れていく。いわゆる知識や価値観を「循環」する中での「排出」を表している。

説明が長くなったが、企業の中には学びほぐしができずに、危機に瀕する所も少なくない。本書は日本における「事業再生ファンド」の草分け的存在である「日本みらいキャピタル」の創業者であり、代表である著者が企業再生を事例に「学びほぐし」の重要性を説いている。

第1章「企業はどのように再生するのか」

巷の本屋では「ビジネス書」は数多くあり、知識・技術・心構えなどを知り、実践するような本がほとんどである。しかし著者はそれを問題視しており、本書は「アンチ・ビジネス書」を説いている。雨後の筍のように次から次へと出てくること、そして客観的な「正解」があることを前提にしていないことを挙げている。

第2章「「事業再生ファンド」とは何か」

そもそも「事業再生ファンド」とはどのような組織かを取り上げている。事業再生を中心とするのだが、そもそもなぜ「ファンド」として成り立っているのか、役割とメカニズムを取り上げている。

第3章「H社の物語① 「学びほぐし」―身体化した企業文化を捨てられるか」

本章から第5章に至るまでは実際の企業再生を行っていく中で、どのような「学びほぐし」を行い、再生に導いたのかを紹介している。会社名、及び登場する方々は仮名であるが、著者自身が行ってきた学びほぐしの実例を紹介している。「企業」によっては多くの人びとが介在し、なおかつ知識や価値観が醸成されていく。その醸成の度合いによっては「学びほぐし」を行うのが難しくなっていくのだが、その「難しさ」を垣間見た章である。

第4章「H社の物語② 「創造」―イノベーションへの挑戦」

この学びほぐしをワークショップなどで行いながら、どのように「イノベーション」「創造」へと昇華して行ったのかを取り上げているが、コロナ禍などの外的要因などの「想定外」によりうまくいかないような状況も続いた。それにもめげず、イノベーションを起こし、再生への足がかりをつくった。

第5章「考察―「H社の物語」に普遍性はあるのか?」

実際に学びほぐしによる再生を行ったH社の実例は、他の会社にも役立つのかというと、業種や規模、さらには企業風土などもあり難しいと言える。しかしながら、多かれ少なかれ「普遍性」があるのだが、それがどこにあるのかを論じている。

「学ぶ」機会はどこにでもある。本にしても、人づてにしても、動画などにしてもある。その「学び」を積み上げることによって価値観や考え方は変わるのだが、それが積み重なりすぎることにより、「固定化」や「硬直化」を起こすこともある。

個人にしてもそうであるが、企業の場合は多くの人がいる中で余計に起こる可能性が高まる。そのため企業単位での「学びほぐし」はこれからの時代のなかで特に必要になり、なおかつ本書の事例を参考に企業としての「学びほぐし」「イノベーション」をどうしていくのかを考える必要が出てきたのでは無いだろうか。