最小限の数字でビジネスを見抜く 決算書分析術

著者の望月様より献本御礼。
大方の企業は決算処理が終わり、財務諸表の監査も大詰めと言ったところであろう。その財務諸表でもって株主総会で昨年度の業績や要員の一つのツールとなっていく。当然財務諸表は数字が多いため、数字が苦手な人にとってはストレスの発生源となり得ることだってある。

本書は数字の苦手な人のために決算書の分析の仕方を伝授している。株主総会が近付いているだけあってナイスタイミングだと私は思う。

第1章「決算書を分析するための情報源」
まずは決算書を入手するのが必須である。ではどうやって手に入れることができるのかというと企業のHPからでも可能だが「EDINET」というサイトでも手に入る。リアル書店などでも手に入れることはできるのだが、煩わしくしない方法として私は「EDINET」をお勧めする。様々な企業の有価報告を閲覧することが可能で、競合企業との分析も可能だからである。当然膨大な数字なので数字アレルギーの人にはお勧めできない。
決算書を分析するのはなにも財務諸表ばかりではなく、企業によっては質疑応答資料を公表しているところもある、さらには口コミや新聞・本・雑誌からでも企業情報を手に入れることができるため、数字の苦手な人はそこからアプローチをかけてみるというのもいい。

第2章「決算書分析の基礎知識」
本書の決算書分析は2つ挙げられている。第3章で紹介する「時系列分析」と第4章で紹介する「競合他社分析」である。本章ではこの2つの分析方法についてはさわりしか取り上げていない、詳細は次章以降で取り上げているためである。2つの分析方法をより理解を深めるために分析の仕方と財務3表(損益計算書・貸借対照表・キャッシュフロー計算書)の見方をわかりやすく解説している。

第3章「時系列分析の基本 NTTドコモの決算書を分析してみよう」
時系列分析はというと、1期毎(だいたいの企業は1期は1年間である)の会計を過去数期に遡って、変化の要因を探りながら利点や懸念要素をあぶりだしていこうという分析方法である。ここではNTTドコモを例に出して分析方法の説明を行っている。

第4章「競合他社分析の基本 NTTドコモ、au、ソフトバンクの決算書を比較する」
ここでのケーススタディは競合他社。前章に続きNTTドコモのほかにauとソフトバンクという競合他社と比較して、他者はどのような戦略を持っているのか、そして自社はどのような戦略でもって差別化していけばいいのかという所で使える分析である。

第5章「ケーススタディ 有名企業の決算書分析」
今までの基礎を踏まえてのケーススタディである。大恐慌時代、まさに「独り勝ち」の様相を見せている任天堂、アパレルのユニクロとH&M、黒字経営を続け経営としても順風満帆に見えたのだが昨年8月に倒産してしまい、「黒字倒産」として話題に上がったアーバンコーポレーションなど全部で6つのケースを紹介している。

第6章「知的生産力を高める会計の使い方」
最後は決算書分析から離れて、会計士から見た知的生産術を紹介している。著者の知的生産の方法としては以下の4つを意識することから始める。

1.目的の明確化
2.情報の収集・分析
3.解決策の作成
4.解決策の伝達

特に会計士の立場である以上、問題解決の目的を明確にして、解決策を導き出す、プレゼンにおいても本の執筆においてもこういったプロセスというのは切っても切れないものである。それを踏まえて、一瞬離れていたと思った「決算書分析」のポイントとうまく伝えるにはどうすればいいかというのが肝心となってくる。

「うまく伝える」の中に「ストーリーを作る」というのがあるが。以下の本を参考にしてストーリーを作成していくのも一つの手段ではないかと思った。ストーリーはいかに数字を羅列にしたものよりも相手に伝わりやすさは雲泥とまではいかないもののそれに近い差はあるだろう。

最初にも言ったように株主や経営陣の中で会計に関してよくわからない人、数字アレルギーの人にはもってこいの1冊である。これから株主総会が続々開催していく中で財務諸表とにらめっこをする人も出てくるだろう。そうなった場合分析の方法についても書かれているのでより確実に分析したい方にも本書はお勧めである。
こういう時期だからでこそ、本書はタイムリーな1冊と言っても過言ではない。