中村獅童と言えば、「ピンポン」や「硫黄島からの手紙」などの映画に出演している人気俳優のイメージが強い。しかし本当は「萬屋」の屋号を担う歌舞伎役者である。もっというと本当の名跡は「二代目 中村獅童」である。先代は3年前に亡くなった獅童の父である。
その獅童は父であるが、その父は歌舞伎役者をデビューしてから間もないときにきつい小言を言われたことに逆上し、鬘を投げつけて梨園を去り、映画俳優として大成したという経緯がある。
歌舞伎界の中でも「異端」と言われる名跡「中村獅童」を梨園に戻し、俳優と歌舞伎役者の二足わらじに揉まれながら活躍する著者の半生と歌舞伎座の思い出について綴っている。
また、本書では昨日逝去した十八台目中村勘三郎との思い出も綴っている。
第一章「たからもの箱・歌舞伎座とぼく」
「歌舞伎座」は歌舞伎役者にとって「殿堂」と呼ばれるほどの檜舞台である。
その歌舞伎座は2010年4月にいったん閉座し、建て替え工事が行われている。古式ゆかしい建物から複合ビルとなり完成は2013年4月頃となる。
その閉座する前の歌舞伎座の思い出、8歳でのデビューのころから、役になりきれず、もがき苦しみ、それでいてなかなか売れなかった頃のことを回顧している。そこから俳優に挑戦し、映画「ピンポン」のオーディションを受けた時の思い出も綴っている。
今となっては人気俳優にまでなった二代目 中村獅童、その獅童が人気俳優になるまでの道のりは決して「平坦」と言う言葉ではなかったことが窺える。
もっというと中村獅童の血縁には時代劇スタアとなった「萬屋錦之介」もいた。父も映画俳優になったことも言ったのだがその血筋も所以なのだろうか。
第二章「歌舞伎座の四季」
日本にも「春夏秋冬」の四季があるとおり、歌舞伎座にも四季は存在した。
歌舞伎座の憧憬にしても、その中で演じられる演目にしても、さらには楽屋の中も変化するのだという。
本章では1月~12月(睦月~師走)の歌舞伎座についての思い出を綴っている。
第三章「「正統派異端系」―歌舞伎の外の世界」
歌舞伎役者として、映画・舞台俳優として、そして「二代目 中村獅童」としてどのように生きるべきか、本章では俳優として、そして自分自身の葛藤を歌舞伎の外の世界として映画監督や俳優との出会いの中で綴っている。
第四章「家族、親戚、そして」
著者の血筋は祖父である、三代目中村時蔵から遡る。時蔵の息子には四代目(時蔵)もいれば、父である初代 中村獅童、第一章の終わりにいった通り時代劇スタアの萬屋錦之介もいるほど「七光」といっても過言ではないほどだった。それが重荷となって歌舞伎としても、俳優としても苦しんだことはあったのだが、彼らとは違う「二代目」独特の芸を磨いていった。その影響には父や叔父たち、さらには「萬屋」そのものの思い出と、「萬屋」の屋号を大きくする思いを語った。
これまで芸能ニュースや映画などでしかみられなかった二代目 中村獅童が「等身大」の姿を綴っていた。人気俳優の中に秘められた「思い」と「苦労」がまざまざと見せつけられる一冊だったように思える。「萬屋」がどこまで大きくなるのか、期待をしつつ見てみたいという思いさえした。
コメント
萬屋錦之介、で私もブログに書きました。おっしゃるとおりですね。今後ともよろしくお願いします。
>戦後史の激動さん
コメントありがとうございます。
萬屋錦之介についてかなり興味深く書かれていて勉強になりました。