「うつ」は病気か甘えか。~今どきの「うつ」を読み解くミステリ

最近では「うつ病」が認知されており、精神医療もだんだんと進化しているのだが、だんだん認知されているとは言え「ただの甘えじゃないか」と見ている人も少なくない。しかし事実だが打つが原因となり人並みの仕事が出来ないばかりでなく、職場復帰・社旗復帰もかなわず、最悪の場合自殺に走ってしまうケースもある。

果たして「うつ」は病気なのか、ただの甘えなのか、本書は現役精神科医自らがその問いについて答える。

第1章「その人はうつ病かただの甘えかー「甘えの診断基準」」
「うつ」といっても完全に病気である「うつ病」と、それに近い「うつ状態(抑うつ)」と呼ばれる状態がある。原因は大きく分けると「内因性(精神的なもの)」と「心因性(心からくるもの)」が挙げられるのだが、どちらも似通っているため、実際に分類するのは不可能と言うぐらい、原因は様々であり、はっきりとしていない部分も多い。もっともうつ病の兆候があっても、それに甘えてそうしている人もいる。
本章では「うつ病」となる診断基準はどうであるのか、そして「甘え」と判断できるのはどこなのかを示している。

第2章「「私はうつです」はうつ病?―主観至上主義」
「うつ病」として診断を受ける人の中には本章のタイトルにあるとおり「私はうつ病です」と自称してくる人もいる。その人たちの場合はどのようにして診断をしたら良いのか、まずは自分自身が起こっている症状のことを語らせ、そして時間を与えながら治すといった方法が取られるという。

第3章「「ストレスですね」にハズレなしーストレス神話」
ここ最近は「ストレス社会」と言われているが、モノがだんだん豊かになっていった事に対する負の側面と言える。そのストレスが肉体的にも精神的にも不調をきたす場合が多いのだが、実際の所、様々な病気に対して「ストレス」が原因である事を指摘し、逃げに走っているのではないかということを主張する論者もいるようだが、著者曰くストレスが原因となる事もあるため「ハズレなし」としている。

第4章「どっちもカンタン、ニセ医者・ニセ患者―但し、禁断」
本章では本当にうつ病なのか、あるいはうつ病と称した「詐病・仮病」なのかを見抜く方法、さらにはきちんと精神医療をしてくれる医者なのかどうかを判別する方法を取り上げているが、サブタイトルに「但し、禁断」と記載されているのが気になってしまう。よくよく考えてみると医者や患者を「ニセ」と判断し、発言するとなると当然相手も怒り出す。もっとも「うつ」の概念を否定させ、ほんとうに「うつ」の人だと悪化させてしまう要因にもなるため「禁断」と定義されているのかもしれない。

第5章「裁かれるうつ病―裁判所はうつ病をどう診断したか」
最近ではうつ病、過労死・過労自殺などが相次いでおり、それに関連する裁判も何度か起こっている。本章ではそのはしりとなった「電通事件」を取り上げている。事件そのものは1991年に起こったのだが、それが民事訴訟になったというものである。訴訟そのものは1996年に一審判決、そして控訴審を経て、2000年に最高裁判決が出て、一部破棄差し戻しとなった。

第6章「果たして、「うつ」は病気か甘えか」
本書における結論となる部分であるのだが、総論的に「うつ」は病気になる部分もあれば、自分自身や医者が作り出した「甘え」となる部分もある。その傾向としてバイアスがかかっているものもある。そのため本章における問いの答えは「ケースバイケース」と良いざるを得ないが、「甘え」となる診断基準は提示されているため、境界線は「一応」はっきりとしている。「一応」としているのはあくまで著者の私見もあり、精神医学的に確立されているのかどうか分らない為である。

第7章「ストップ・ザ・ドクターストップ」
「うつ病」と診断されるとドクターストップになり、休職になる人もいる。この頃様々な「うつ病」が生まれているのだが、本当に「病気」なのかどうかも分からない。第一原因もそれぞれであり、一般的にも病気かどうかはっきりとしていないため診断書に書いていても信用しすぎてはいけない。当然うつ病を否定しても行けないというのもあるが、うつ病によるドクターストップは社会常識に則って、慎重に行うべきと著者はいう。

確かに「うつ」はここ最近、その状況にある人が増えている事実がある。しかし本当に「病気」なのかと聞かれると首を傾げることもある。そのため、他の病気と比べても、判断が曖昧な所が多く、果たして病気なのか、そうでは無いのか、という議論は深めていく必要がある。それだけ難しいモノなのかもしれない。本書はうつ病のメカニズムというよりも、「うつ」が抱えている医学的な「疑問点」を浮き彫りにした一冊と言える。