日本二千六百年史

本書は昭和14年に発売されたものの復刻版であるが、本書の最初の部分にも書いてあるが、不敬罪違反により削除された部分も復刻している(つまり初版版を復刻したと同じである)。そういう意味では歴史学上最も重要な文献の一つと言えよう。ちなみに当時では20万部以上のベストセラーとなった。

さてこの著者である大川周明であるが、起訴されたA級戦犯の中で唯一の民間人であり、さらに精神疾患(後に「脳梅毒」と判明)により免訴された思想家である。ちなみに東京裁判の開廷の時にパジャマと下駄姿で出廷し、パジャマをはだけ出すなどの奇行を行った後、東条英機の後頭を「ピッチャン」という音を立てて叩き、「It’s a comedy!!(これは茶番だ!)」など叫び、ウェッブ裁判長が精神異常をみなし免訴としたエピソードがある。

それはさておき、本書の内容は簡単にいえば歴史教科書という位置づけであるが、本書において不敬罪違反に引っかかった部分は傍線で引かれており、不敬罪がどのような範囲で引っかかったのだろうかという一つの資料になる。さらに現代語に崩すことなく誤字脱字だけ修正されているためありのまま書かれていたものが復刻したといってもいい。ただし普通に読むと若干読みづらい感じもあるが、中学や高校の歴史の教科書よりもありのままに書かれており、おそらく中国人や韓国人に見せたら発禁にしろと言いそうな内容であることは間違いない。

まず印象に残った所を見ていこう。

「この計画は北条氏の探知するところとなり、後醍醐天皇は誓書を関東に賜いて、辛うじて事なきを得た。(中略)皇室は之によりて鎌倉の鼎の計量を知りたもうことを得た。したがって京都における革新の計画は、この一撃により阻まれることなかった。」(pp.137-138より)

ここの部分は改訂の際に不敬罪違反により全部削除された部分である。革新の計画をもっていたのだがこれが北条氏が知れ、天皇の賜りにより事なきを得たということである。もし革新の計画が成功されれば天皇の継投は断絶したのかもしれない。しかしそう考えるとなぜ不敬罪違反になったのかがよくわからない。天皇と言うことを軽んじて用いたせいなのか、あるいはそれを知ることを禁ぜられたのかという疑義がある。
さらにもう一つ、

「フランス革命はナポレオン専制によって成った。ロシア革命はレーニン及びスターリンの専制によって成りつつある。而して明治維新は、実にその専制者を明治天皇於いて得た。」(p.276より)

これは前述の推測があってもなくても一発で不敬罪違反として削除されたのだろう。天皇陛下に大政奉還をおこない新政府のもとで独自の民主主義を確立していった政府であるが、大政奉還により政権を天皇に返すということで天皇陛下への専制政治を返すという解釈はできるが、天皇は大日本帝国憲法下では統帥権は確立していたが、実際天皇は重臣会議の決定の下で首相の大命降下を行うことや助言をもって内閣に実行していたこと、天皇専制によって政府は成り立ったというのには語弊がある。

このほかにも傍線部分には重要な部分から語弊のある部分まであるが、本当の日本史を読むにあたり思想家の歪曲は若干あるにしても、ありのままに書かれている歴史の教科書はそうそうない。ありのままの歴史を学びたい人には格好の1冊である。そして大川周明が戦前・前後どのようなことを訴えたかったのかより調べたくなった。折しも昨年は大川周明の没後50年。日本の歴史を紐解いていくためには重要なものがまだまだ残っているのかもしれない。歴史をあかしていくのと同時に「西欧が最も怖れた知の巨人」「東亜の論客」と呼ばれた大川周明の思想について見ていく所存である。

最後に作家の佐藤優氏が大川周明の「『日本二千六百年史』を読み解く」というwebマガジンがあるためこれも併せて読むともっと本書を面白く読めるのでお勧めしたい。

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