裁く技術~無罪判決から死刑まで

株式会社オトバンク 上田様より献本御礼。
2009年5月21日に裁判員制度がスタートしてから半年経つ。既にいくつかの事件において裁判員制度が適用されており、今後は改正も視野に入れながらの練り直しも行われることだろう。現時点では来年には約30万人もの人が裁判員候補者名簿に記載される見込みである。もし裁判員に選ばれるとしたら労働など様々な不安が出てくることだろう。

本書ではあらゆる不安の中から刑事裁判はどのように行われるのかについて、元裁判長であり、数々の裁判を経験してきた著者が、分かりやすく説明した一冊である。

第一章「裁判の流れをつかむ技術」
裁判員に選ばれる通達がありそこから裁判員に関してもろもろの説明がある。本章では裁判員の視点から裁判の流れについて説明されているが刑事裁判がどのように行われるのかについても流れに沿ってわかりやすく書かれている。
但し、裁判傍聴常連のかた、検察・弁護側についたかた、被告人経験者は読み飛ばしてもかまわない。

第二章「犯人かどうかを決める技術」
検察側が犯人と立証すべく、弁護側は無罪だと立証すべく、様々な証拠が提出される。裁判員はそれらの証拠を基に有罪・無罪、無期・有期懲役といった判断をくだす。しかし、証拠の種類は多岐にわたっており、それらをどのようにして証拠を判断するのかについて素人であるため裁判官が懇切丁寧に教えてくれるわけではない。法の庭に感情が入ってしまうというリスクをいう論者がいるがこうったことも一例としてある。
本書ではいくつかのケースが紹介されており、それぞれの状況でどのような証拠が提出されどのような判断を行うのかというのが書かれているが、TPOによって細かく違ってくるためあくまで参考例として見ると良いと思う。

第三章「懲役年数を決める技術」
ここでは量刑はどのようにして決まるのかについて説明されている。有罪・無罪についてはすでにニュースや文献でもって広く伝えられているが、量刑についてはあまり伝えられておらず、どのようにして決まるのかというのは私自身、本書を読むまで知らなかった。
おそらく量刑について解明できる唯一の一冊であると私は思う。調べたければ本書を読め、という意地悪なことはよしといて、量刑によって裁判員の意見がバラバラになるケースは少なからず存在する。その場合、最も中間的な刑罰となるという。

第四章「死刑かどうかを決める技術」
かつて裁判員制度廃止論者はこの死刑について市民は裁けるのかという主張をしていた。裁判官でさえもこの刑罰を言い渡すのに凄まじい労力やプレッシャーとなるという。それを国民にやらせたくないという心なのか、それとも司法に携わる人のエゴイズムなのかの真意は闇の中であるが。
裁判員制度で適用される事件は刑罰が確定的であるものに限られるが、死刑が適用されるものはこれまでのところない。法律的に素人である、裁判員に下すのはリスクが大きすぎるからである。
死刑になる基準は「永山基準」と呼ばれるものがあり、殺した人数によって量刑が変わるという基準で用いられてきた。しかし昨今では1人でも残虐性により死刑が適用されるなど、基準が揺らいでいるのも事実として挙げられる。

第五章「本当に困ったときの危機回避の秘密」
国民が裁判をする以上、何かしらか分からなくなってしまうことが多い。簡略、簡易化しているとはいえ、様々な用語が飛び出すことがあり得る。それだけではなく、刑罰を下すかどうかの「不安」というのも少なくないため、「疑わしきは罰せず」に基づきながら判断を下すとよいという。

裁判員制度が始まって半年がたつ、約5000人に1人が裁判員候補者名簿に記載されるが、裁判員になることへの不安はあることだろう。本書はその不安をかき消してくれるものの一つに挙げられる。