動物の殺処分は自分自身、本書に出会うまで全く知らなかった。現に家畜伝染病予防法や動物愛護法などで、特別な理由によりできるとされている(伝染病の危険、あるいは実験動物の役目終了などによるもの)。しかし、熊本県は殺処分に関する対策を行い、限りなくゼロに近づけたのだという。これが世界中に「熊本方式」として注目された。
本書は「熊本方式」がどのようにして成り立ったのか、本書では方式ができるまでのプロセスを綴っている。
第一章「昔のお話」
著者は熊本で開業獣医として働いているのだが、開業したのは昭和50年代に入ったときだった。その時は「動物愛護」に対する関心は薄く、「動物管理」という概念が蔓延していた。動物管理として殺処分を行うこともほぼ日常茶飯事のことだった。著者は殺処分にまつわる統計を取得したが、統計をとっていなかったことによる空欄が所々あり、著者は行政の体たらくについて怒りを覚えた。
第二章「市動物愛護センター」
行政の体たらくに怒りを覚え、動物愛護に向けての活動を始めた。獣医師会の中にもそのような動きがあり、昭和59年に動物愛護センターに持ち込まれている犬を救うためのフェスティバルを初めて開催し、現在まで続けている。
やがて、動物愛護推進協議会が作られ、そこで活動をする事になった。本章では平成18年以降のことについて取り上げているが、その時は不要犬の「引取有料化」を行い始めた。しかし市民・動物愛護センター・推進協議会双方の軋轢があり、対立をすることも度々あった。
第三章「市動物愛護推進協議会」
様々な対立や事件があったが、動物愛護協議会の会長にまで担うことになった。本章は熊本市の動物愛護協議会の仕組みや事業についてを紹介している。
第四章「地域ネコ」
あまり聞き慣れない言葉であるが、動物愛護協議会設立当初から考えていたのが、「野良犬対策」の他に「野良ネコ対策」もあった。
「野良ネコ対策」として実際に行われたものとして、本章のタイトルにある、「地域ネコ」がある。「地域ネコ」とは飼い主のいないネコを、地域ぐるみで育てるようにするという対策である。
地域で育てるものの、「ネコ嫌い」の住民も存在しており、説得までする必要があった。他にも餌をやる場所を決める、不妊・去勢手術をするといった課題もあった。また、野良ネコによる被害を受けた住民もおり、住民・動物愛護協議会・野良ネコ双方がWin-Winになるような関係はまだまだ道半ばである。
第五章「愛護の心」
動物愛護の心は著者から、協議会員に伝わり、やがて、その中で独自の活動を進めていく人も出てきた。それが著者にとっても、協議会にとっても、県単位で動物愛護活動のレベルアップのために進めていった。
第六章「さまざまな思い」
県外の話になるが、平成22年には宮崎県で口蹄疫の騒動が起こった。口蹄疫の伝染を防ぐために大量の宮崎牛が殺処分をすることとなった。また、翌年23年には東日本大震災が起こった。宮城や福島を中心に、ペット・家畜かかわらず、大量の動物が殺処分となり、かつ、収容に困ったり、野放しになったりする事さえあった。熊本の経験をもとに助けようと思ったのだが、助けられなかったこと、さらにそれらのことについて著者はどのように思ったのかを綴っている。
動物愛護を進めるためには一人ではできない。協議会としての協力、さらに地域住民の理解なくしては、達成することができない。それを得るためには長い年月をかけて行う必要があった。その結晶がここにあり、と言うべき一冊だった。
コメント