執事とメイドの裏表 ─ イギリス文化における使用人のイメージ

「メイド」「執事」と言うと「メイドカフェ」や「執事カフェ」を連想する方もいる。しかしそれはアニメや漫画、さらにはライトノベルやゲームから生み出された産物である。そういった作品に出てくるメイドや執事作品の中には、それらの歴史を深く読み解きながら描いている作品もあれば、イメージでしかない産物も散見される。

ではそもそも「執事」や「メイド」はどのような歴史を辿って作られたのか、本書は「イギリス文化」にフォーカスを当てながら、その歴史について紐解いている。

第1章「執事―旧約聖書からハリウッド映画まで」
今でこそ男性の使用人として「執事」と言われているのだが、元々はお酒の管理が主な仕事だった。それがやがて「バトラー」と呼ばれ、貴族の身の回りの世話をするようになっていった。本章でも王様など身分の高い人の執事について取り上げられている。

第2章「ハウスキーパー―愛しすぎた女性たち」
第4章で詳しく述べられる「メイド」の中にも色々な役割が存在する。家の周りの世話をする「ハウスキーパー」もその一つである。しかしこのハウスキーパーは、使用人の中でも上級の位で、「メイド長」に匹敵すると言ってもおかしくない。というのは家政婦達の仕事の監督・統括を行っているのがハウスキーパーの役割にある。

第3章「料理人―「きまぐれ」が歓迎されるポスト」
メイドや執事の仕事の一つとして「料理人」がある。当然主人のために料理をこしらえるが主な役割だが、決まったものをつくることもあるのだが、「きまぐれ」が許される所も料理人の特権としてあるのだという。その意味で料理人の権力は局所的とは言えど、強かったのだそうだ。

第4章「メイド―玉の輿はありかなしか」
使用人と主人の格差はとてつもなく大きい。ましてや物語に出てくるようなメイドと主人の恋物語は、単純に物語にあるだけで、現実になしえたケースは皆無に等しい。とはいえ、そういった物語のヴァリエーションは多い。
さて「メイド」と言っても、家の規模によって役割が限定されていたり、身の回りのこと全てをやったりするためはっきりとした定義は広義・狭義とあり、定かになっていない。ただはっきりとしているのはイギリスでは古くから「家事使用人」として扱われてきたのだが、具体的にいつ頃かについては不明である。

第5章「従僕と下男―孔雀の出世」
「従僕」も「下男」も元々は「男の召使い」のことである。いずれも主人に雇われて雑用をするのだが、身分としては執事やメイドよりもずっと低い。

第6章「乳母―影の実力者」
これは母親に変わって子を育てる人の事を指しているが、「影の実力者」としているところが面白い。それは主人の子供をしつける立場にあるため、身分は当然主人よりも下だが、主人の子供を躾けられる、もしくは叱れる権利を持っている。それがやがて大人へと成長していくので「影の実力者」は、まさに含蓄のいく言葉である。

本書のことでつくづく思ったのが、本書以外にも執事・メイドなどの歴史について事細かに描いている漫画・アニメ作品があったことを思い出す。今年「乙嫁語り」でマンガ大賞を受賞した森薫氏「エマ」という作品がそれにあたる。これは貴族とメイドの恋物語を描いた作品(よく考えてみると第4章にも似ているような気がする)だが、近世イギリスの歴史と共に、執事・メイドの歴史を知ることができる作品である。本書を先の漫画を併せて見ておくと、メイドや執事のことをより深く知る事ができる。