本書の著者はあまりピンとこないかもしれない。ちなみに俗名の笹倉明(ささくらあきら)という名前を聞くとピンと浮かぶ方もいることだろう。それもそのはず。「漂流裁判」や「遠い国からの殺人者」「昭和のチャンプ―たこ八郎物語」で有名で、そのうち「遠い国からの殺人者」で第101回直木賞を受賞した作家である。
その笹倉氏が2005年にタイに移住し、2016年にパンオン寺に出家したという。なぜ出家したのか、そして出家での仏道修行に至るまでのことを綴ったのが本書である。
第一章「出家前夜」
元々著者はバンコクに住んでおり、生活していたが、ある挑戦から挫折したときに大僧正の逝去のニュースを見て、出家しようと決意したという。
第二章「テーラワーダ仏教のかたち―タイ仏教の出家式(一)」
俗人から出家するためには請願が必要であり、その後出家式を通じて、テーラワーダ仏教の僧としての人生がスタートすることとなる。テーラワーダ仏教では厳しい戒律が定められており、その戒律を守ることを誓うなどを唱えなければならない。
第三章「華と没落を招いた日々」
本章ではなぜタイに移住したのかを取り上げている。冒頭でも述べたように2005年にタイへと移住したのだが、その理由は金銭的な理由だった。
第四章「四堕の戒めと出家資格―タイ仏教の出家式(二)」
出家するにも資格が必要であり、第二章でも取り上げた十戒の他に「四堕(しだ)」がある。「四堕」とは、
「殺生、盗み、非梵行(ひぼんぎょう・性行為)、虚言」(p.98より)
とあり、やってはいけないこととして挙げている。その戒律を聞き、最後に教戒師との問答(いわゆる面接の質問)を経て初めて出家が許される。
第五章「家族をめぐる愛と苦」
著者が出家した理由の一つとして人間関係、特に女性や家族関係の拗れによる苦しみにあるという。どのように拗れていったのか、そのことについて取り上げている。
第六章「僧生活の心得と説教―タイ仏教の出家式(三)」
出家を経て僧生活に入るのだが、そこでの衣食住はどのようなものかを取り上げている。いわゆる「四依(しい)」に準じているという。
第七章「俗世を捨てる決心」
タイに移住してからどのようなことがあったのかと言うと、実はシニアゴルファーを目指していた。しかしながらこちらでも金銭的な理由から頓挫してしまった。元々出家したい思いがあったのだが、だんだんと膨れ上がり、ゴルファーへの道がなくなり、大僧正が逝去したニュースを見て、決心がついたという。
第八章「仏道修行とは何か―タイ仏教の出家式(四)」
出家式の模様と、仏道修行についてを取り上げているのだが、特に出家式の模様が中心となっている。その出家式は周到に行われたというのだが、そこにも意味があるのだという。
第九章「老僧の道」
仏教の修行を通して、今の人生を振り返りつつ、どのような人生だったのか、そして仏道を通じて、どのような余生を送りたいのか、その意気込みを述べている。
日本とは異なるタイの仏教とは何か、と言うよりもタイで出家することはどのような意味なのかを知ることができる。出家して4年の月日が流れており、修行の日々が続いているのだが、どのような修行だったのかは後の本でのお楽しみと言うべきか。
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