組織行動論の実学

本書はハーバード・ビジネス・レビューという中から組織行動論について心理学の観点から経営課題を解明している。一見お堅い本であり、かつ机上の空論かという疑いもあるのだが、本書を読むと日本の経営の現状にも通底する部分が多い。

第1章では組織の7つのタイプがあるがとりわけ半数以上を占めたのが不健全な組織となる4つのいずれかに該当しているという。逆に健全といわれるのは4分の1を少し超えたくらいしかないというからいかに少数であるのかが窺える。

特に注目したのが第5章「なぜ地位は人を堕落させるのか」。これはまさにその通りである。さらに「権力を持つと堕落しはじめる」というのは経営者や国会議員をはじめとした権力者はこれを教訓にするべきであると私は思う。権力とはいつまでも続くものではなく、さらに「権力は腐るもの」というほど長くしがみつくとどこかに歪みができてしまい、やがて取り返しのつかないことが起こってしまう。現に防衛庁の守屋問題がまさにその典型的な例であろう。本書でも経営幹部に急激な勢いで昇進したもののその後堕落の一途をたどった女性のエピソードを紹介している。

もう一つには「組織の頂上には滑りやすい急坂がつきもの」。経営者たるもの権力に酔いしれることなくやらなくてはいけない。少しでも色目があるとそこから急坂にはまりあっという間に転げ落ちてしまう。権力を持つということはそのリスクを知っている人というのはどれくらいいるのだろうか。実際それを知ったからでこそ権力を維持できるとも見て取れる。

そして第12章は「選択バイアスの罠」である。ここでは私のような書評ブログでも肝に銘じておくべきものがあった。
「みんな成功例ばかり学んでいる」そして「ケーススタディは成功例ばかりで失敗例に乏しい」である。成功例をまねぶ(学ぶ+まねる、もしくは応用するという意味もある)ことに越したことはない。しかし成功例ばかりで成功してもその先はどうするのかという答えが見えてこない。

当然成功本を見て自分もそうでありたいという気持ちは大切だが成功した後これからどうするのかも考えないと、壱度きりの成功だけであとは凋落の一途をたどるということにもなりかねない。それともう一つは本書では成功本ばかりでは偏った知識や技術を身につきかねないという。これについては真偽の疑いはあるものの、失敗を学び自分はどうしたらいいのかということを考え事項することも大事だと本書で言っているような気がした。

最後第14章には「失敗は成功の反対ではない」ということ。これはIBMの創業者であるとーマース・ワトソン・シニアが

「成功への最短距離は、失敗の確率を二倍にすることだ」

と言っている。成功へ導くには楽な道はあっても1つ2つしかない。それに楽な道をたどっても必ずやその成功に酔いしれるあまり大きな落とし穴にはまりかねないのである。「失敗は成功のもと」という諺もあるので失敗は人生の糧にもなるし、それによって自分はこんな失敗したことにより多くの教訓を持つことができる…がそれは一人一人が失敗をどのように受け止めるのかによるのではないだろうか。

最初に言ったように見るからにお堅い本ではあるが、いざ読んでみると、これは使えるものが結構あっていい。ビジネス本を読んでいるという方にもお勧めの1冊である。