南アフリカの衝撃

いよいよ来月から南アフリカでFIFAワールドカップが開催される。しかし前回のドイツ大会、前々回の日韓大会と違い、日本では盛り上がりに欠けている。それ以上に悲観的な見方が多く、失望感さえあるという意見もある。しかし4年に1度の大会に参加できる以上、並みいる強豪を相手に最高の試合をし、悲観的な見方を吹き飛ばしてほしい思いである。

さて今回開催される南アフリカであるがアフリカ大陸の国々の中では最も経済的に豊かな国の一つである。しかしその一方で日本やアメリカをも凌ぐほどの格差や犯罪に悩まされており、首都のケープタウンから一歩郊外にでると危険であるという。

本書はTVやニュースではあまり知ることのできない南アフリカ共和国の現実について綴っている。

第一章「サッカーワールドカップはできるのか?」
来月行われるワールドカップの前に南アフリカでは15年前に競技は違うが「ワールドカップ」を開催した経験を持つ。それは「ラグビー・ワールドカップ」である。アパルトヘイトにより、国際的な大会に参加すらできなかった南アフリカ代表チーム(「スプリングボックス」と呼ばれる)がラグビーでは1・2を争うほどの強豪であるニュージーランド代表チームに勝ったこともあり、大成功を収めた。
この勢いでサッカーワールドカップにも選ばれたが、スタジアム建設が予定より大幅に遅れるなど、様々な問題を抱えているのだが、それ以上に次章以降に述べるようにアメリカ以上の「犯罪天国」であることがネックになっている。

第二章「虹の国から普通の国へ」
第五章でも述べるのだがネルソン・マンデラが大統領に就任したとき「虹の国」と自国を称した。それから15年経ったが、マンデラのいう「虹の国」はもはやその陰すら見えなくなるほど腐敗してしまった。かつては「アパルトヘイト」という人種差別が悲劇を生んだのだが、今度は民主主義・資本主義化によって「格差」は急激に悪化するなど、経済の上で「差別化」が進んでしまった。それと同時に雇用状況も非常に悪く、昨年時点での完全失業率は23.6%までに及んでいる(ちなみに日本では2010年春現在、5.6%)。またHIV感染人口も全世界の中で最も多く、医薬にまつわる裁判も起こっている。マンデラ以後の政権ではそれらの問題にうまく対処できず失脚してしまう例がほとんどであった。

第三章「南アフリカは日本にとっての”アフリカ”」
南アフリカと日本の関係はきわめて親密とはいえない。というのは日本の経済構造の変化により、日本におけるアフリカの割合が以前は3割あったのだが、それが1%あるかどうかにまで落ち込んだ。もしかして工業の変化というよりも「失われた10年」による原因が強いように思われる。しかし「失われた10年」が終焉してから資源や希少金属の輸入が増え始め、1%近くの状態だった比率を徐々にあげ始めているのは事実である。

第四章「歴史を正しく理解する」
学校では、世界史を学ぶ機会は当たり前のようにあるのだが、南アフリカの歴史についてはほとんど触れられていない。ヨーロッパの植民地だったということしか触れられていない。
南アフリカの歴史の始まりは未だにわかっていないのだが、10世紀に農耕・牧畜の文化を定着させたことから始まっている。本章の年表では1652年にオランダが「東インド会社」というのを設立させ本格的な植民地支配が始まったことから記載されている。

第五章「マンデラという英雄――南アフリカ解放史」
1994年に初めて大統領選挙が行われ、ネルソン・マンデラが選ばれた。南アフリカでは初めての黒人大統領が選ばれた。そのマンデラであるがアパルトヘイトの中で終身刑を宣告され、27年もの間獄中にいた。しかし27年経過してもマンデラの信条はいっさい変わらず、看守でさえも一目おかれる存在にまでなったのだという。90年に釈放されたのだが、その演説で再びメディアの前に現れたことにより民主化への歯車は急速に動き始めた。
マンデラは政権獲得後、世界各国との国交を再会し、民主国家への胎動をアピールした。しかしそのマンデラもアフリカ諸国間との和平交渉は軌道に乗ることはできなかった。諸国の政治腐敗はマンデラの想像を遙かに絶するものだった。

第六章「グローバリゼーションを呼び込む――民主化後の経済」
90年代以降、民主化が進んでいくうちに経済的にも変化を遂げた、著者が赴く度、まるで違う国に行ったような錯覚を覚えるほどであった。
そして国際間の競争が激しくなるにつれて、驚異的なインフレが起こった。とりわけ80年代では経済的な悪化も相まった「スタグフレーション」が続き、政府も庶民も苦しんだ。

第七章「世界に躍進する南アフリカ企業」
南アフリカの経済は官民の連携により国際化、成長を遂げてきた。もっとも大陸から外にでた貿易中心から、アフリカ大陸内での貿易中心にシフトしていったことにより、アフリカ大陸内で経済的なwin-winの関係を結ぶことができたところが大きい。また貴重な鉱物資源も豊富にあるため、それを利用した貿易も進めている。

第八章「南アフリカに世界を見る」
世界の先進国の中で南アフリカに最も投資を行っている国はというと中国である。経済的な成長がこれから見込める、そして何よりもBRICsの次に急激な成長を見込めるところとして中国政府は白羽の矢を立てた。しかし中国でも経済権益について苦戦を強いられており、これから日本やアメリカでも南アフリカの経済に立ち入ることができるのかが経済成長のカギの一つとされている。

最初にも言ったように来月からFIFAワールドカップが開幕する。あまり知られていない南アフリカについての現状について、本書はまさにもってこいの一冊といえる。