漢詩と人生

著者は大学で中国文学を専攻して以降、「漢詩」とともに人生を歩んでいったと言える。
漢詩の研究はもちろんのこと、NHKにて「漢詩をよむ」「新漢詩紀行」など、漢詩にまつわる番組や著作に携わってきた。まさに「漢詩の第一人者」とはこの人の為にある名である。
本書は古今東西の「漢詩」とともに、人生、老い、家族、くらし、出会いなど人生を映えるような詩を紹介している。

第一章「ままならない人生」
「ままならない人生」とはいったい何なのだろうか。そもそも「ままならない」とはどのようなことを指すのだろうか。
本章ではそのことを考えながら一年の計、鬱屈、休日、多忙にまつわる漢詩を見た。
中でも王安石の漢詩は現在の日本と同じようなことが古代中国大陸でも、環境は違えど起こっているというのは驚いた。

第二章「老いて思う」
「老い」は人生を歩んでいる以上、必然的につきまとう。
本章では「老い」にまつわる光と影にまつわる漢詩を取り上げているが、本章の冒頭にある前漢時代の最高権力者である武帝の老いへの嘆きは、老いまで時間のある私にとって最も考えさせられる詩だった。

第三章「家族の絆」
子供、姉妹、妻、父、母、祖父母など、同じ「家族」の中でも様々な「絆」が存在する。本書は家族にまつわる詩が紹介されている。

第四章「閑適のくらし」
タイトルの通り、ズバリ「隠居暮らし」のススメである。様々な本を読んだり、自然の中で散歩をするといった悠々自適、かつ安穏とできる生活の様を詠んだ詩について取り上げられている。

第五章「憂いをはらう玉箒」
気を紛らわす、もしくはストレスを発散させるために「酒を呑む」という人も多いことだろう。しかし呑む程度を知らないと、酒に呑まれるだけではなく、人生の濁流にも飲まれる羽目になるので気をつけてほしい。
本章では「憂い」を払うための「お酒」にまつわる漢詩が紹介されている。
気になったのが本章のタイトルの中に「玉箒(たまばはき)」が使われているのだが、これはいったい何なのだろうか。
これは諺で「酒は憂いを掃う玉箒」を意味している。「箒」と言うことなので悩みを掃除してくれる事からこう呼ばれている。そのことから「酒」の異名として「玉箒」と名付けられることもある。

第六章「出会いと別れ」
「一期一会」といった四字熟語をはじめ、出会いや別れにまつわる熟語、故事成語、諺は数多くある。漢詩もその例に漏れていない。本章では人同士ばかりではなく、季節など形のないものの出会いと別れも取り上げられている。

「漢詩」というと私も高校の頃までしか触れたことがなかった。社会人になっても論語や孟子など中国文学の中で触れる程度でどっぷりと浸かることはあまりなかった。本書は触れることの少ない「漢詩」の愉しさと趣を教えてくれる。