誰のための会社にするか

「会社の在り方」一つでその経営方針から変化をしていく。「誰のための〜」もその目的という意味で効用がある。

本書は日本企業の現在を見つめながら問題提起を行い、これからの企業はどうあるべきか、という指針を描いた一冊である。

第一章「コーポレート・ガバナンスー「治」の時、「乱」の時」
「コーポレート・ガバナンス」とは企業経営を監視・規律する事を総称した仕組みなどを指している。1960年代にアメリカで使われ始めており、日本でも最近になってその言葉が使われ始め、法的にも「日本版SOX法」の施行により、法的にも整備され始めたが、日本的経営ではそれがよいように利用されている例も少なくない。

第二章「グローバル・スタンダードと企業統治の社会的インフラ」
「企業のグローバル化」と言われて久しいが、その実態の一つとして「株主所有物企業」になっている事がある。とりわけ「戦後最長の好景気」と呼ばれた時代にはそれが顕著になった。本章ではこの「株主所有物企業」の実態と日本での在り方について考察を行っている。

第三章「どこに改革の必要があったのか」
「失われた10年」から脱出したのだが、バブルや高度経済成長の時期にあった「自信」は喪失から立ち直れていない。ましてやその後急速に景気は後退し、ますます経済をたち直す「自信」が喪失してしまっている。本章では学術というよりもむしろ「精神」な所の原因を考察している。

第四章「組織の変革」
組織の変化は内的要因にとどまらず「コーポレート・ガバナンス」の導入や法改正などの外的要因によって変化せざるを得ない例も少なくない。本章では後者における組織変革について書かれている。

第五章「株主パワー」
「失われた10年」を脱した時から株主の発言力は増大していった。それ以前にも「総会屋」というのが経営にいちゃもんをつけるのがあったが、株主の発言はそれとは違い、経営状況が良かろうが悪かろうが、株主配当を上げろというような調子で発言をするという。

第六章「株主天下の老後問題」
本章では年金制度に関しての考察を行っている。日本の基礎年金や厚生年金制度に関してアメリカの視点からどのように見ているのかがよくわかる。

第七章「ステークホルダー・パワー」
経営者、従業員、下請け会社、株主と様々なステークホルダー(利害関係者・団体)があるのだが、現状としてそのパワーは株主に傾いており従業員や下請け会社といった所では淘汰されがちになっているという。では日本では「労働組合」といった労働の環境改善などを経営者に訴えるような団体はあるのだが、それは機能しているのか。本章ではそのことについて述べている。

第八章「考え直す機運」
株主優先主義と言われているが、ホリエモンや村上ファンド、さらには敵対的買収など経済的にもニュースになった事柄は少なくない。そのためか株主優先の考え方は見直されはじめ「MBO」が横行するようになっていった。

第九章「ステークホルダー企業の可能性」
前章で述べたように最近になって「MBO」が盛んに行われている。企業買収から身を守るというのも一つの見方なのかもしれないが、もう一つの面では「従業員満足」の向上も挙げられる。蔑ろになっていた従業員に目を向け、顧客、従業員双方で満足できるような企業にしていくのか、という考え方にシフトしている企業も少なくない。

「誰のため」の会社なのか?という問いの答えは時代とともに変わりつつある。「株主のため」「経営者のため」「国のため」「世界のため」と、スケールの違いはあるとはいえ企業経営の軸になっているのは間違いない。経営の在り方は企業の数だけあるが、マクロ的にどうあるべきかは、なかなか答えは見つけられない。むしろ「永遠の課題」として挙げられるものなのかもしれない。