ゴジラ音楽と緊急地震速報 ~あの警報チャイムに込められた福祉工学のメッセージ~

昨年の3月11日より幾度となくTVで「チャラン・チャラン」と緊急地震速報が流れたところも多かった。

普段TVを見ない私にとっては携帯電話からサイレンのような音でやってくる緊急地震速報をその音を聞いただけで怯えてしまうほど聞いたことがある。

本書はその「チャラン・チャラン」となる緊急地震速報のメカニズムとゴジラ音楽の関連性について考察を行っている。なお監修者である東京大学教授の伊福部達氏は叔父にゴジラ音楽を手がけた作曲家・伊福部昭がいることを言っておく必要がある。

第1章「ゴジラ音楽と映像音楽四原則」
叔父の伊福部昭氏が手がけた「ゴジラ」の音楽について映画音楽の原則に則って論じている。

叔父の音楽を甥である著者が論じるというのも言葉では代え難い不思議さがあるのは私だけであろうか。

第2章「聴覚の不思議」
小中高大と学生時代から何かと「音楽」に携わってきた私自身でも「聴覚」や「音」に関してわからないことが多い。「音楽」に限らず「生物学」の学問でも解明されていないところがある。
本章では「音」の周波数からいかにしてTVで流れる「緊急地震速報」ができたのかを解き明かしている。

第3章「音の福祉工学と聴覚の世界」
著者が研究している「福祉工学」とはいったいどのような学問なのだろうか。
本章では福祉工学の研究そのものと著者の生い立ちについてを綴っている。

第4章「伊福部達と蝋管再生プロジェクト」
著者が「緊急地震速報」の依頼が来たきっかけは1983年に遡るという。このとき叔父は存命である時代といえる。
それはさておき、その「緊急地震速報」の音を作るヒントの一つとなった「蝋管式蓄音機」の再生プロジェクトについて本章では追っている。

第5章「チャイム音の制作ー課題と検証」
いよいよチャイム制作の裏側である。
著者は叔父が作られた音楽も含めていくつかの曲を候補に挙げている。最初にも紹介した「ゴジラのテーマ」、そのほかにも吹奏楽でも取り上げられている「シンフォニア・タプカーラ」、叔父の音楽以外にも「蒲田行進曲」などがある。

その音楽を参考にいくつかチャイム音をつくりだしたがそれを被験者に試しながら試行錯誤を行った。

第6章「福祉工学が秘める可能性」
そうして「緊急地震速報」のチャイムが完成したが、福祉工学についてこれはあくまで「通過点」である。人工喉頭や補聴器などの研究があるという。

緊急地震速報は聴覚に難のある人、あるいは心理的な不快感を覚えさせず、かつ緊急性を理解させる上でどのような音や周波数が良いのかという研究が詰まった結晶である。それは叔父の音楽の恩恵もあるのだが、これまでに研鑽を進めてきた「福祉工学」のかたまり、といっても過言ではない。本書を読んでそう思った。