ビッグデータの覇者たち

「ビッグデータ」とはいったい何なのか、首を傾げる人も多い。「ビッグデータ」とは、

「インターネット上に存在する膨大なデータ(特に非構造化データ)を迅速に収集・分析することで,ビジネスや学術などに有用な知見を得ようとする考え方。また,その分析対象となる膨大なデータ。」「大辞林 第三版」より)

とある。文字通り件数が膨大なデータであり、とりわけ、「構造化されていない」データの事を指す。「構造化されていない」というのは、簡単に言うとデータが整理されていないと言うことであり、本棚であればビジネスや小説などのカテゴライズ、さらにはあいうえお順にインデックスされておらず無作為に並べられている状態のことを指している。
ちょっと前置きが長くなってしまったのだが、膨大なデータである「ビッグデータ」はビジネスの世界で大きな影響をもたらす、と言うことを昨年・一昨年あたりから語られていた。本書はその「ビッグデータ」の可能性について探っている。

第一章「なぜ今「ビッグデータ」なのか」
「ビッグデータ」とはどのようなデータなのか、と言われてもピンとこない人が多い。
一例を挙げてみると、今日1日でGoogleやYahooで検索したときのキーワードの累計、あるいはAmazonで検索された本、そしてTSUTAYAで借りたCD・DVD・本の総数と言った物が累計されると膨大な量になる。その膨大な量を解析し、おすすめの商品、商品の傾向を割り出して、次なるマーケティングにつなげることができると着目されているからである。
現に、先程書いたAmazonでは一人一人のユーザーがピックアップした本、個人情報を元に分析を行い、オススメの本を紹介している。これは前述の個人情報や本のチョイスなどの膨大なデータから、複雑な統計解析の公式を用いて割り出している。そのため昨年・一昨年に「ビッグデータ」と共に「統計学」が明るみに出たのはこのためである。

第二章「データ世界の考え方」
日本のみならず、先進国を中心に「情報化社会」と言われているのだが、「情報」を得るばかりではなく、情報を正しく分析し、それを次なるマーケティング戦略につなげていくことが大きな課題となる。そのため「情報」はゴミくずになるのか、それとも金のなる木になるのか、とらえ方次第である。

第三章「ビッグデータを全身で体現するグーグル」
ビッグデータを利用して売上を大きくし、成長させた企業はいくつか存在する。最初はグーグルである。グーグルは常々新しい技術を開発しては、見込みのない所は即座に撤退すると言った事を繰り返しているのだが、これは検索データを元に分析し、何を必要としているのか需要を解析して出た戦略である。

第四章「主要ネット企業の勝敗を分ける「データ」」
ネット義業はゴマンとあるのだが、ビッグデータを上手く活用して成長している企業もあれば、ビッグデータの活用を手こずって衰退してしまった企業もある。本章ではグーグル・アップル対決から、Amazon、リンクトイン(LinkedIn)を引き合いに出し、ビッグデータの活用で明暗を分ける事について説いている。

第五章「世界を良くするためのデータ技術」
ビッグデータの扱い方は民間企業の専売特許では無い。自治体や政府などの公的な組織でもビッグデータによって思いも寄らぬ発見することも少なくない。代表的な物では2012年に行われたアメリカ大統領選挙におけるバラク・オバマの「マネーボール作戦」がある。

第六章「ビッグデータ技術の世界」
ビッグデータを分析する手法を「データマイニング」という言葉で用いられる。「データマイニング」とは、

「大量に蓄積された未加工のデータの中に存在する,ある傾向や相関関係などの情報を見付け出すための技術・手法。顧客動向の分析など企業活動に応用される」「大辞林 第三版」より)

とある。解析・分析する手法は「統計学」でも用いられるのだが、企業の特色を用いてどのように分析をするのか、そしてデータをどのように集めるのかによって企業の明暗が分かれる。

第七章「ビッグデータの現在と未来」
日本でもビッグデータを活用する傾向が出てきたものの、プライバシーやセキュリティの観点からビッグデータの活用そのものに対し反対意見・クレームがある。一例として、

「日本でのプライバシー議論では、「単なる気持ち悪さ」と「実害」とを区別せず、ユーザーが受けるデメリットを比較することもせず、漠然と「情報を取られる」ことを「悪」と決めつけて話していることが多いという印象を持っています。」(pp.187-188より)

昨年末から今年初めにかけて議論された「特定秘密保護法」への反論もこのことに該当する。実際に「知る権利」と「プライバシー保護」とが対立していて、データや情報活用の効用が見えておらず、闇雲に「権利」と声高に叫ばれているように思えてならない。

ビッグデータは流行の産物では無い。むしろインターネットが出る以前から違う形で「データ」が存在しており、それが膨大になっていった。そしてインターネットが出てきて広がったことによってビッグデータは脚光を浴びた。ビッグデータはこれからますます大きくなり、それによる解析技術はドンドン進んでいく。その潮流をリードして新たなる戦略を立てられる企業やビジネスパーソンがこれからのビジネスを担っていく事になる。本書はその可能性を見出した一冊である。