森の力 植物生態学者の理論と実践

本書のタイトルを見て「住友林業」のCMの歌を思い出してしまった。しかしながら本当に森は癒やしでありつつ、未来の命や経済をつくり出すための力を担っていると言っても過言ではない。その森の力をどのように引き立たせているのか、そしてそして森の不思議とは何か、著者自身が植樹を中心とした森の再生を実践しながら取り上げている。

第一章「原点の森」
元々神道の宗教では八百万神と呼ばれる概念があり、それぞれのものに神を宿る。もっとも森の木々たちが神域と呼ばれるものを結び、宗教的な要素を持つこともあるのだが、とりわけ神社に付随して木々が成り立つものとして「鎮守の森」としてあげられる。その鎮守の森を復活するために著者は動いたのである。

第二章「始まりは雑草から」
著者自身の研究は始まったのだが、その手始めは「雑草」の研究から始まったのだという。その雑草の生態を研究していく中で森はどのように復活していくのか、そのことを模索していた。

第三章「日本の森の真実」
そこから「植物社会学」と呼ばれる学問に出会い、そして日本の森の現状を知る章である。当時は高度経済成長期にあり、開発が著しい中で森がだんだんと減少していくという現実を見たことを表している。

第四章「木を植える」
そのことに衝撃を受け、植樹を進めていくことになった。いわゆる「理論」からの「実践」を行っていったことを記録している。学者というと学問を練り上げることが中心とされているのだが、実社会に浸透するため、そして理論を形成づけていくために相反する「実践」が不可欠であるのだという。

第五章「“宮脇方式”」
植樹の方法によって森を形成づけていくパターンはいくつかあるのだが、その中でポット苗を利用して植樹し、森を形成づける方法を「宮脇方式」と呼ばれるようになった。

第六章「「天敵」と呼ばれた男」
著者は森を復活のためのことを行ってきた一方で、一部の業者の中には「天敵」と呼ばれる方々がいた。しかもそれは民間の業者だけでなく、省庁にも存在したという。しかもその方々の中には「ニセモノ」と罵った人もいたのだという。

第七章「いのちと森」
そもそも植林の理論と実践を使用としたきっかけとしては大東亜戦争における「東京大空襲」がある。東京中が焼け野原となり、10万人以上の命が奪われた。それがきっかけとなり、「いのち」に対するこだわりを目覚め、そこから遡ること「関東大震災」では緑の壁と呼ばれる森が命を救ったということを知ったことから植林の実践を深めるようになった。

第八章「自然の掟」
自然にも「掟」が存在する。それはどのような物なのか、そして植林に関する論争はどのように展開していったのか、そのことを取り上げている。

今となっては植林も進められている一方で、その植林で使われるスギやヒノキが植林をすることによって戦後から花粉が蔓延し、花粉症なるものが流行するようになった。植林は地球環境の保全として役立てられた一方で、負の側面も存在する。とはいえど、森の力を復活したこと、そしてそのことによって日本における自然信仰を再び萌芽させたことは著者の功績と言っても過言ではない。