味なしクッキー

私自身「味なしクッキー」を食したことは無いのだが、想像するに後味がパサパサしながら、それでいて粉っぽさが口に残ってしまうのかも知れない。

そういった後味の悪さというか、悪い印象が本書には本のタイトルの通りに表されているのかも知れない。しかも本書は短編集で収録されている全ての作品にて、その悪い結末となっている(もちろんストーリーのパターンが同じというわけではなく)。その「悪い結末」は、著者ならではのミステリー感を漂わせるにはもってこいと言える。

どういった作品が収録されているのかというと、

タイトル通りフランスの男女関係を表した「パリの壁」
別れ際につくったシチュー、しかしそのシチューに使った肉は想像し得ないものだった「決して忘れられない夜」
秀才と呼ばれた男の決断が事件の引き金を引いてしまった「愚かな決断」
女性研究者の周囲に起こった悲劇、その悲劇のトリックとは何か「父親はだれ?」
ある間違い電話から起こった殺人事件、しかしそこにはある落とし穴が存在していた「生命の電話」
浮気をしていた女性が、旦那にバレてしまい、そこから殺人事件に発展してしまった表題作「味なしクッキー」

の6つである。

中でも特に印象的だったのは「決して忘れられない夜」。最初こそ恋人の別れ際を描いており、何だか切ないタッチなのだが、最終盤に前述のものが出てくる。その豹変というか、狂気ぶりはミステリーというよりも「ホラー」の印象が強く、そういった意味で「忘れられない」作品であった。