沈むフランシス

本書のタイトルにある「フランシス」は川のほとりにある木造家屋の名前である。

本書の舞台は北海道の東部にある架空の村であるが、「湧別川」が記載しているところから推測すると、遠軽町か湧別町のあたりにある架空の村と推測できる。その村に東京から引っ越してきた女性。元々東京では商社のOLとして働いていたのだが、ふるさとの地が忘れられなかったのか、それとも何か思うところがあるのか、本書ではつかめなかった。しかし東京から北海道の田舎に移り住み、その後の環境の変化、そして田舎ならではのやりとりが非常に生き生きと映し出しているところが印象的である。

そして本書の核心として、最初に書いた「フランシス」に暮らしている男性との恋愛が描かれている。しかしその男性は妻持ちで、決して結ばれない行きずりの恋なのだが、物語が進むにつれ、最終的には恋が深まっていくというものある。この恋は成就するかどうかと言うところまでは描かれていないのだが、案に示しており、妻を持っている男にとっては禁じられた恋に沈んでしまうという意味合いから「沈む」というタイトルが書かれているように思えてならない。

前作の「火山のふもとで」でも取り上げたとおり、風景描写が非常に緻密で、前作と同じく文字を追っていくだけでも風景がよく見える。また舞台が北海道であることから森や畑、さらには雪など北海道ならではの自然を事細かく描かれており、入念に取材してきた姿が目に浮かぶ。恋愛小説でありながら、2人の距離も描きつつも、謎めいた展開がなんとも恋愛小説の中でも異質でありながら面白い、そう思える一冊だった。