医学部の大罪

言うまでもないが著者は東大医学部出身であり、受験や精神医学に関する本を多く出版してきた。しかし自身の出身である「医学部」を「大罪」と称し、批判をしている。医学部出身だからでこそ言えること、そして医学の現場にいたから言えることさまざまであるのだが、本書はあくまで医療、それも医学部を批判していることを基軸にしている。

第1章「超高齢社会に対応できない医学部―医学部の少ない県ほど、寿命が長く、医療費も少ない!?」

今となっては「高齢化社会」どころか「超高齢社会」と呼ばれるような時代であるのだが、それに対応できている県とできていない県がある。そこには「医学部」が存在しており、本章のタイトルにもある通り医学部の少ない県ほど寿命が長いという。その要因として「正常値」や「薬」などが挙げられる。

第2章「ガンも減らず、ガンで死ぬ人も減らせない医学部―ガン検診の普及でガンが増える不思議」

ガン患者をどのように付き合っていけば良いか、どのように治療をしていけば良いか、医者の力に大きくかかわってくるのだが、その「力」は治療をする力ばかりではない。緩和や免疫だけではなく、コミュニケーションによる、ガンと上手に付き合っていくというにする力も含まれるのだが、ガンを減らすだけではなく、ガン致死者を減らすことができない医学部を批判している。

第3章「心の時代に背く医学部―40歳未満の死因第1位の自殺にも対応できない」

著者は精神科医であるため、こういった精神医療に関しての現状は嫌と言うほど知るようになる。もっともその精神科がなぜ軽視してしまっているのか、その要因について取り上げている。

第4章「製薬会社の治験機関でしかない医学部―メタボブームのインチキははぜ起こったか?」

大学の医学部が「製薬会社の治験機関」であることは初めて知ったのだが、そもそも病院で、病気であればあるほど大量の薬を処方されるのだが、その要因がよくわかる。また、本章のサブタイトルにある「メタボブーム」のカラクリも解き明かしている。

第5章「優秀な学生をバカにして送り出す医学部―大学病院に研修医が集まらなくなっているわけ」

医学部のハードルは高い。もっとも著者が卒業した東大医学部は日本の大学、もっと言うと学部の中でも最難関と言われるほどのところである。しかしその医学部は6年間もの学生生活の中で何を学んでいったのか、そのことについて取り上げている。

第6章「医療行政を歪める医学部―既得権の権威主義から競争原理の働く実力主義へ」

「大学病院」や「医学部」を聞くと歪んだヒエラルキーが存在するという。こういったものは小説や漫画独特なものかと思ったが、実は今もなお存在したのだという。本章はその弊害について指摘している。

本書を読むに「医学部はすべて潰すべき」と言えるようにも見て取れる。私は完全にその通りとは言わないものの、人口減により、医者の人数が過剰になり、ゆくゆくは医学生が減り、そして医学部がだんだんと減ってくる。とはいえ医学部は消滅するかと言ったらまだ残り、その医学部が今もなお悪影響を及ぼしている。本書を読むと日本の医療に未来はないように思えてならない。