本書は哲学的考察であるのだが、ドイツの近現代の哲学者である、ハンス=ゲオルク・ガダマーを取り上げている。ガダマーが逝去したのは2002年。18年前のことである。当時の哲学というと、ハイデガーやハーバーマスといった人物が有名で、ガダマーは私自身も本書に出会うまでは知らなかった。本書はガダマーの哲学について入門書として取り上げている。
1.「ガダマーの伝統的解釈学批判は誤っているのか?」
ガダマーの哲学の主要な要素として「伝統的解釈学」を批判したことにあるのだが、解釈について科学的な見地ではなく、歴史的な見地から考察を行うべきというものである。これにはハーバーマスを中心とした哲学者が批判をし、論争に発展したほどである。
2.「歴史的な存在者には過去の理解は不可能なのか?」
いわゆる解釈や科学について「歴史」という見地で考察を行うのがガダマーの哲学だったのだが、そもそも「歴史性」はどこからくるのか、伝承やてくすとなどをもとにして取り上げている。
3.「先入見はテクストの意味への接近を閉ざしてしまわないのか?」
歴史性の解釈となると、よくあるのが「先入観」や「偏見」をはじめとした「先入見」というものである。その先入見と歴史性の関係性について考察を行っているのが本章である。
4.「現在の地平しかないのに地平融合とは何を意味するのか?」
ガダマーの解釈学の中で代表的な要素として「地平融合」がある。これは「地平」について、
「ある位置から見えてくるものすべてをとりまいている視野」(p.62より)
とあり、その視野が異なるものと合わさることによって融合をするという。ようは自分自身の持っている視野とそれとは異なる他人の視野を併せて、立体的にとらえることを意味している。
5.「なぜテクストの意味は著者の意図を超えるのか?」
テクストは著者の表現や考えでもって構成されているのだが、いわゆる「行間」と呼ばれるものから解釈を行う。しかしながら、その解釈の意味合いはテクストをつくった人の意図を超越することが度々ある。そもそもそれは何を意味しているのかについて取り上げている。
6.「ガダマーは解釈の相対主義に陥っているのか?」
ガダマーの解釈はしばしば「相対主義」と言われている。もっとも解釈の比重により、どうしても相対的になってしまうことにあるという。
7.「了解に共通性は必要なのか?」
同意や合意、さらには了解と言った解釈があるのだが、その両方の解釈についてどのような意図を持っているのか、共通性を元に取り上げている。
8.「テクストは自ら語るか?」
テクストは読み方によって、見方・解釈などが変わってくる。本書を読むにしても、皆が皆同じような解釈になることはとうていあり得ない。同じ文章や表現にしても、そこからある「先見性」によって変わってくるのだが、そもそもテクストはどのような存在なのかを論じている。
9.「ガダマーはヨーロッパ中心主義者か?」
日本の哲学の中で「ガダマーはヨーロッパ中心主義」という議論が成されているのだが、そもそも本当なのかをガダマーの哲学をもとにして考察を行っている。
ガダマーの哲学はテクストや歴史性などを元にした解釈が主体となっている。もっともテクストの解釈は今回のように本を読んだことによる解釈にも通じている。その解釈はどうあるべきか、永遠の課題であるのだが、その課題に一石を投じたのは、他ならぬガダマーであることがよくわかった。
コメント