3年前の恐慌は「100年に1度の恐慌」と言われており、1929年の「ブラック・サースデー」と比べられることが多い。しかしノーベル賞受賞の経済学者は今回の恐慌と類似点があるのはむしろ「1907年の金融危機」と類似点があると指摘している。これについて取り上げたメディアは少ないおろか、そもそも「1907年金融恐慌」について知る人は果たしているのだろうか、と言うのも疑問に思えてならない。「リーマン・ショック」と「ブラック・サースデー」という単純な比較から脱し、他に起こった金融恐慌とをどのような類似点があり、どのように脱したのかという格好の材料となるのが本書である。
では「1907年金融危機」はいったいどのようなものだったのか、あまり表沙汰になった事が無く史料も僅かであるため、端的にしか言えないのだが、独占的支配を目論む大企業群に対して不満が噴出した、これにより「反トラスト運動」が起こり、独占的支配を目論む大企業は軒並み分裂。そのことにより企業の株価は暴落してしまった。
この金融危機でウォール街の投資家らの資本投入により未然に防がれ、国際的な騒ぎは未然に防がれたと言われている。しかし当時は「日本銀行」や「FRB」のように中心的な銀行が無かったことが大きなネックとなった。その教訓から1913年に「FRB」が誕生した。
その100年後の現在ではまるで違った金融危機を迎えている。1907年以後の1929年でも、ブラック・マンデーでも、それぞれ形の異なった「恐慌」が起こっている事実がある。では「恐慌」に特効薬はあるのか、と言うとほぼ皆無に等しい。むしろ「セオリー」というものは存在しないのかもしれない。本書は解決のための特効薬を教えてくれるのではなく、「恐慌とはこういうものだ」という事実を教えてくれるに過ぎない。しかしその現実を受け止めるための「教訓」としての役割があるとすれば、大いに役立つ1冊である。
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