性と柔~女子柔道史から問う

柔道は日本の国技であるが、女子の柔道も同様であるのだが、実は男女格差があるのだと著者は指摘している。というのは柔道で段位になると「黒帯」をつけるのだが、男子は真っ黒な黒帯に対し、女子は表紙の写真にあるように、帯に白い線が入っている。これは柔道社会と言う名の「ムラ社会」が生まれた産物であるという。

本書は柔道の歴史の中から女子柔道の歴史を、それも柔道における男女格差について指摘している。あくまで柔道差別を指摘しているわけではなく、あくまで「考察を行っている」というものである。

第一部「柔道史から社会を見つめる」
第1章「正史と秘史」
歴史には「正史(教科書にあるような表向きの歴史)」「秘史(裏の歴史、黒歴史)」がある。柔道そのものの歴史は1882年(明治15年)に嘉納治五郎が創始し、講道館がつくられたと言うものがあるのだが、その裏には、講道館と武徳会の対立というものがあった。その対立は戦後に終焉を迎え、武徳会は講道館に吸収されることになった。厳密に言えば、戦後間もないときに武徳会が、国粋主義であることを理由にGHQによって解散されることになった。

第2章「柔道の社会的価値」
柔道は「武道」なのか「スポーツ」なのか、という議論は今でも起こっている。「武道」には「美徳」や「道徳」によって成り立っている。これに対して「スポーツ」は「勝ち・負け」で競うものになり、勝利至上主義の傾向が強くなっている象徴として著者は指摘している。近年は「武道」と言うよりも「スポーツ」の傾向が強くなっている。
他にも先日取り上げた「柔道事故」もあれば、昨年話題となったハラスメントや体罰の傾向も強くなっている。

第二部「女性と柔道」
第3章「女子柔道の歴史」
女性と柔道の歴史はどのようなものだったのか。本章では明治時代の初期に遡る。明治時代の東京朝日新聞には女性柔術家が殺害事件をしたことを取り上げている。おそらくそれ以前から存在していたのかもしれない。それからは「婦人柔道」が出てきて、女子柔道へと発展していった。その一方で女性であることを理由に試合にでられなかったり、昇段できなかったりすることが起こった。

第4章「いかに蔑視されてきたのか」
戦後になってから、女子柔道は広がりを見せた一方で、競技化もしていくようになった。また男女雇用機会均等法を前後して、女子柔道の国際大会も開かれるようになっていった。また、オリンピックも1984年のロサンゼルスオリンピックの時に女子柔道が採用されることになった。
その一方で一昨年末から起こった女子柔道におけるセクハラ・暴力事件の告発から始まり、全柔連のわいせつ事件などが明るみになり、女子柔道への差別が未だに残っていると言うことが証明された。

本書は一昨年末に起こった告発を機に、女子柔道がどのように変遷してきたかと言うのを考察している。おそらくフェミニズムを提唱する人の中には、本書を機に、男女差別を声高に叫ぼうとする人もいることだろう。しかし、性差別というものは柔道に限らず、様々な所である。本書はあくまで女子柔道はどのように扱われてきたのかを分析しているだけで、別に差別を主張しているわけではないということだけは言っておく必要がある。

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