観光大国スイスの誕生~「辺境」から「崇高なる美の国」へ

「永世中立国」であり、リゾート地としても名高いスイス。さらに言うとスイスは税金も比較的安いためか、セレブな方々も移住してくるのだという。
そのスイスは「観光大国」としても名高いのだが、いかにして「観光大国」となったのか、本書はそれについて紐解いていく。

第一章「グランド・ツアーの世紀―崇高のスイスが、観光すべきものなしか?」
スイス観光に来る目的の多くは「アルプス観光」である。アルプスの魅力については第二章・第三章に任せるとして、本章ではスイスにおける観光の歴史について紐解いてみる。
本章のタイトルにある「グランド・ツアー」は、

「一六世紀より英国貴族達は、スイスに訪れて(通過して)いた。国際人として教養を身につけるため、グランド・ツアーと称して、数年以上かけてヨーロッパ大陸をめぐる大旅行を行っていたからだ。しかしその主な目的地は先進国のドイツやオランダ、なかでも美術と文芸の発達しているフランスとイタリアが最も重要な訪問国であり、スイスはイタリアへ行くときに、やむを得ず通過する交通上の「通り道」にすぎなかった」(p.18より)

とある。当時スイスはあくまで「通過点」としか扱われておらず、観光としては扱われていなかった。それが雄大な自然など、観光資源として評価されたのは、それから200年以上も先のことだった。

第二章「崇高美への憧憬―氷河・滝・アルプス・湖」
山の景観は、日本でも富士山など美しいところはあり、スイスでもアルプス山脈の観光が魅力的であったが、通過点に過ぎなかった時代は山の景観は忌み嫌われる存在だった。それが評価されるようになったのは「エミール」や「社会契約論」で有名なルソーがいたころの時代である。
スイスでは山の景観の他にもシャモニーの氷河やライン滝、レマン湖など自然観光を楽しめるところはいくつか存在しており、画家によって風景画として取り上げられることもあった。

第三章「アルプス観光・登山の流行」
「アルプス観光」というとアルプス山脈を眺めるのも一興だが、アルプス山脈を登山すると言うのもまたロマンである。しかし登山は18世紀まで宗教的な理由により忌避されていた。宗教的な理由は2つあり、「魔女・魔物が棲んでいると信じられていた」「イエスを磔刑した人物に由来しており、その男の霊が彷徨っている」と言われていたためである。
登山が初めて行われたのは16世紀頃であるが、自由に登れた訳では無かった。自由に登れるようになったのは19世紀頃のことである。それから多くの登山家がチャレンジするようになった。

第四章「療養大国スイス―ベルエポック時代の空気療養地」
スイスは自然環境が豊かであり、療養の地といても有名である。他にも人気の「温泉地」があり、ロイカーバートと呼ばれる所は最も有名である。

第五章「アルプスの宮殿―ベルエポック期のリゾートと高級ホテル施設」
自然環境の他にもスイスでは山頂に高級ホテルがあったり、リゾート地や宮殿があったりするなど、観光としての宿泊・安息地も多数存在する。また登山電車などインフラの拡大も行われているが、あくまで自然環境を損なわないようにしている。

元々スイスは近世の時には通過点として扱われ、見向きもされなかった。それが一大観光地となったのは産業の発展のみならず、自然を活かしたことが大きな点である。永世中立国であるスイス、と言うよりも、観光大国としてのスイスにはどのようなものがあるのか、そしてその歴史についてよくわかる一冊である。