神々と肉食の古代史

昨今では当たり前のようにハンバーガーやステーキなど肉を食べる機会が多いのだが、元々奈良時代に聖武天皇が「肉食の禁」が出て、開国を機に解かれるまでは長らく牛肉・豚肉などは食べられなかった。そのことからか兎の肉を食べるときに、兎の耳の部分が鳥の羽と似せられていることから数え方が「匹」ではなく、「羽」と数えられた逸話も存在する。

それはさておき、聖武天皇が肉食の禁を出す以前はごく普通に肉も食べられていたのだという。もちろん神話も含めての事であるが。本書は神話から、古代以降にかけて、どのような肉食が行われ、やがて禁じられていったのか、その歴史について紐解いている。

第Ⅰ部「牛肉を喰らう女神」
肉食の禁が解かれ、文明開化になった時に、「牛鍋」と呼ばれるものがブームになった。後にこの牛鍋は「すきやき」として親しまれるようになったのだが、神話の時代から牛肉を喰らっていた女神が存在したのだという。その名も「御歳神(「みとしのかみ」、または「おとしのかみ」)」と呼ばれる神で、主に「収穫」を司る神であったのだが、その神が怒ったこと、そしてその理由はいったい何なのかについて取り上げている。その理由として、御歳神に捧げるべきだった牛肉を農民に食わせてしまったことで禁忌に触れたと言うことが取り上げられている。
他にも御歳神はいったいどのような存在なのか、そして神に捧げる祭り、もしくは祭りの時に捧げる供物としての「肉」とは何なのかについて考察を行っている。

第Ⅱ部「生肉を好む神々」
御歳神は牛肉を好んでいたのだが、他にも肉を好む神々が存在した。ここでは一例として「常世神(とこよのかみ)」や「漢神(かんしん)」について取り上げている。実際には神そのものが肉を食べる逸話が存在した話もあるのだが、「御歳神」を始め本書で取り上げる神々の多くは、神社の祭りにより、「供物」として捧げられていることから、神々が肉も食べられていたと言われている。

第Ⅲ部「肉食と殺生の禁断」
よく知られているのが先程何回も書いたとおり、聖武天皇の肉食の禁であるのだが、以前にも邪馬台国の時代に肉食を禁止された人がいたり、神の中でも肉食や殺生を禁止したりした事例も散見する大きな物で言うと、聖武天皇以前で言うと、飛鳥時代の後期である天武天皇時代の頃に「肉食禁止令」が発令されたという。仏教の伝来以前の事であるのだが、殺生を戒めるためにつくられた命令である。肉食禁止令自体は一時的なものであったのだが、後に何度も肉食禁止令のようなものが出され、次第に日本人における肉食が希薄化されていったきっかけにもなった。

今ではあたりまえのように肉を食べる。しかし歴史を紐解いてみると日本人は肉食なのかというと、時代によって異なるし、殺生を嫌う、あるいは仏教の教えなど様々な理由から肉食そのものを禁じた歴史も存在する。日本人と肉食の関係はあるにせよ、歴史と共に距離が変わってきているため、一概に言えないことが本書を読んで良く分かる。

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