〈効果的な利他主義〉宣言! ――慈善活動への科学的アプローチ

「利他」とは、

1.自分を犠牲にして他人に利益を与えること。他人の幸福を願うこと。
2.菩薩などが人々に利益(りやく)を与え救済すること。「広辞苑第七版」より

とある。元々ビジネス書や自己啓発書などでも出てきており、根源の一つとしては京セラの創業者であり、日本航空の名誉会長である稲盛和夫氏が著書で「利他」の心を提示してから広がりを見せたことにある。

さて、この「利他」を実施すると言っても、どのように行ったらよいのかわからない方々も多くいる。本書ではその「利他」にまつわる方法をどうしたら良いのかを提示している。

第1章「私もあなたも、恵まれた1パーセント──あなたに何ができるのか?」

日本をはじめ、多くの国々が「資本主義」を採用している。そのため、どうしても貧富の差が起こるのだが、その差のありようが看過できなくなり始めたのが「格差」という言葉が生じたためである。その格差を是正することも一つであるのだが、恵まれている人から恵まれていない人に対して寄付をしたり、慈善活動をしたりするなどがある。またその方法を挙げるだけでもきりが無いほどである。

パートⅠ.「効果的な利他主義にとって重要な5つの疑問」

第2章「難しいトレードオフ──疑問1 何人がどれくらいの利益を得るか?」

「きりがない」からでこそ、いかにして効果的に「利他」的な活動とすることができるのかが、大きな課題として上げられる。その中で利他の活動を行うなかで、一つ考えておくべき事がある。それが本章のサブタイトルにある疑問である。これは「格差」がどうなっているのかを把握するための疑問である。

第3章「何百人もの命を救う方法──疑問2 これはあなたにできるもっとも効果的な活動か?」

実際に恵まれている国が、恵まれていない国に対して資金や資本援助を行っている事実があるのだが、とある経済学者はそれは意味が無い、もっと言うと「有害」であるという主張があった。その主張をもとにして、どのような活動が効果的なのかと言うことについての論考を本章にて行っている。

第4章「災害支援に寄付してはならない理由──疑問3 この分野は見過ごされているか?」

おそらく日本人としてはこれほどグサリとくる章はないと言える。というのは今年も九州の豪雨被害、さらには新型コロナウイルスにおける募金や義援金の募集などがある。しかしお金を寄付することは悪いことではないものの、災害に関しての「寄付」は行わない方が良いという意見である。本章では「収益逓減の法則」と呼ばれる経済的な用語で取り上げている。これは、

所与の状況のもとで,ある生産要素を増加させると生産量は全体として増加するが,その増加分は次第に小さくなるという法則「コトバンク」より抜粋

とある。難しいように見えるのだが、本章では2011年の東日本大震災を引き合いに出しているのだが、実は先日「小さなパン屋が社会を変えるー世界にはばたくパンの缶詰」を取り上げた中で、阪神・淡路大震災における復興支援のために、パンを寄付したのだが、支援過多により、食べられずに廃棄処分となった事例がある。

第5章「人類史上最高の英雄は無名のウクライナ人男性──疑問4 この行動を取らなければどうなるか?」

本章では当時ソ連(現:ウクライナ)の生物学者であったヴィクトル・ジダーノフを取り上げている。ジダーノフは戦後間もない1958年の時にWHOにて天然痘の撲滅を提案したことにある。当時のジダーノフの無名であり、なおかつ逝去してからも有名ではなかった。しかしジダーノフの尽力とWHOにおける協力も相まって、提案から22年後の1980年、撲滅宣言が出るまでに至った。本章ではその足跡を紹介している。

第6章「投票が数千ドルの寄付に匹敵する理由──疑問5 成功の確率は? 成功した場合の見返りは?」

変化を起こすためには何も寄付ばかりでなく、「投票」もまた一つの手段である。本章では2011年の東日本大震災に端を発した「福島第一原子力発電所事故」がある。その事故の顛末と政治背景、さらには投票で変わることの意味についてを取り上げている。

パートⅡ.「効果的な利他主義を実践する」

第7章「間接費やCEOの報酬額にまつわる誤解──社会に最大の影響を及ぼす慈善団体はどれか?」

よくニュースなどで、役員報酬の高さ、あるいは慈善活動を行っていると言った話を見聞きする。しかしそれらの活動に意味があるのかは人それぞれであるのでわからない。ただ実際の慈善活動の中で社会に影響を及ぼすといった事も実際に起こっている。その中身について取り上げているのが本章である。

第8章「搾取工場の商品を避けるべきでない道義的理由──消費者として社会に最大の影響を及ぼすには?」

「搾取工場」と言うと物騒であるのだが、実際に、先進国の下請け工場を、新興国に作り、人的コストを抑え、なおかつ安く大量に生産させるといった動きがある。もっともその工場で働く人々は日本におけるブラック企業も青ざめるほどの過酷な労働条件の中で働かされる、あたかも現代における「奴隷制度」のように。その影響により、搾取工場で作られた商品を不買する、あるいは搾取工場そのものを撲滅する運動ができるほどだった。しかし本章では搾取工場のさらなる実態について取り上げている。

第9章「「情熱に従え」の落とし穴──世の中に最大限の影響を及ぼせるキャリアは何か?」

よく就職活動における求人票の中に、「アットホームな雰囲気の会社です」や「情熱的な会社です」といった言葉が乱舞する。本章では会社ではないものの、仕事などにおけるキャリアプランの構築として自らの情熱ではなく、自分自身の持っているスキルや考え方が世の中にどのような影響を及ぼすのかを考える事を提示している。

第10章「貧困か、気候変動か、それとも……──もっとも重要な活動分野は?」

世界は危機的な状況に貧しているのだが、それはいったいどこが深刻化しているのか、人によっては「貧困」もあれば、「気候変動」もある。人それぞれの視点があるとは言え、深刻な問題の中でいずれも見過ごせない中で、どれだけ見過ごされているのか、そして重要な分野をどのように判断を行ったらよいか、そのことについて取り上げている。

「効果的な利他主義」となるにも、実際にどのように行ったらよいのかというと、本章を見るだけでも複雑である。ただ、一つ一つ行うと言うよりも、自分なりに解釈をして、寄付の習慣をつけることや、自分自身が適している利他的なコミュニティに加わるといった事などが挙げられる、「利他」を行うためにも、まず目の前の問題はどこにあるのかを見据えることが必要である。