発酵野郎!―世界一のビールを野生酵母でつくる

本書のタイトルを中身を見ずにふと見ると、どうしても発酵学者で有名な小泉武夫氏を連想してしまう。小泉氏は酒や納豆をはじめ、発酵食品を数多く取り上げた発酵学者であり、まさにリアル発酵野郎と言える人物だからである。

しかし本書はクラフトビールの話である。日本には地域ならではのクラフトビールが存在するのだが、本書はそれとは異なり、酵母をこよなく愛し、クラフトビールの世界を切り拓いた人物の歩みを示している。

1章「餅屋で終わってたまるか」

元々著者は代々続く餅屋であった。創業は1575年、21代つづく餅屋の後継となったが、餅屋では終わらず他の道を行こうとも決意したという。

2章「ビール造りの天国と地獄」

酒税法改正に伴いビール造りにも変化をもたらすようになった。それは1994年の改正によって製造における年間の量が引き下げられ、中小メーカーでも参入ができるようになったからである。ビール業界に参入したのだが、そこは苦難の連続であった。

3章「ビール・サイエンスラボを目指す」

より良いビールを研究するためにビール・サイエンスラボを開設し、麦芽、ホップ、酵母などの研究を進め、試行錯誤を行い、より良いビールを研究し続けてきた。

4章「無限の酵母愛を胸に」

本書の冒頭には「菌塚」のある京都の曼殊院が言及されている。いわゆる「菌の墓」であり、冒頭で取り上げた小泉武夫氏も京都に赴いたときには必ず参るという。著者は参ったかどうかは言及は本章ではしていない。

それはさておき、ビールを造るための一つとして「酵母」が必要であることは3章でも言及があった。しかし酵母の良し悪しも、ビールの美味しさに影響を与えるだけに、酵母の研究を深めていくにつれ、酵母に対する「愛」が目覚めたという。

5章「50歳にしてやっと自分も発酵してきた」

酵母の研究はもちろんのこと、餅屋の経営、さらにはビールの開発などかつてあった「モーレツ」というような仕事を行い続けてきた。しかし「やり過ぎ」といった諫言をもらってからは自分自身を移動しながら、考えや仕事について「発酵」することができたという。

6章「伊勢をもっと発酵させてやる」

伊勢からクラフトビールを生み出すことにより、他の地域に対し「今に見てろ」といった反骨精神を生み出した。また伊勢は発酵によってもっと進化するのではないかという考えもあり、色々と発酵していこうと模索しているという。

7章「こんな奴が成功しているクラフトビール界」

クラフトビールの世界では色々な所が成功していると言う。ではいったいどこが成功をしているのか、そのことについて取り上げている。

8章「日本のクラフトビール新時代に」

クラフトビールの業界自体は変化を起こしており、新しい時代に入ったという。ではどのような動きがあったのか、本章ではクラフトビール業界の動向を追いつつ、著者自身の立ち位置を見定めている。

9章「オレ流発酵組織論」

著者自身は餅屋だけでなく、クラフトビールでの会社も経営している。それだけに組織も常々変化が求められるのだが、どのようなことが必要なのか、著者もホームベースである「発酵」に絡めて取り上げている。

ビールへの愛、発酵への愛がこれでもかというくらいに伝わる。またビールに限らず、味噌などの発酵食品にも言及しており、なおかつ発酵についての研究を論文にしているほどである。おそらく発酵学としても新たな道を切り拓き、なおかつ商品に昇華している所を見ると、本書のタイトル通りの「発酵野郎」であり、意図はしていないものの小泉武夫氏の後継者にもなり得るのかも知れない。

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