英もよう 女形ひとすじ 二代目英太郎の生涯

本書で紹介する人物は演劇、特に新派をご覧になる方々以外は馴染みが薄いかも知れない。劇団新派の俳優でありつつ、新派を越え、歌舞伎などの外部の公演でも女形を貫き、演じてきた。その俳優の名は二代目英太郎(はなぶさ たろう)である。新派では波乃久里子二代目水谷八重子ら女優もいるのだが、男優でありつつ女形を貫いた数少ない俳優であった。2016年に逝去しているため没して5年経つが、英太郎がどのような生涯を貫き、なおかつ俳優たちに影響を与えていったのかを取り上げているのが本書である。

第一章「演劇界に残したもの」

タイトルとしては「残した」というよりも「遺した」といった表現がしっくりくる。歌舞伎を含めた演劇の世界では女形は珍しくなく、大衆演劇でもメディアで引っ張りだことなっている梅沢富美男も大衆演劇「梅沢劇団」で女形を演じている。女形として貫いた俳優は数多くいるのだが、英太郎は女形を貫き、現代の演劇にどのような足跡を遺したのか、評論家と、長年共演した女優それぞれの立場から綴られている。

第二章「81歳まで現役女形を貫いた 二代目英太郎の生涯」

二代目英太郎は元々料亭や芝居小屋の経営者の息子として生まれ、演劇も親しんでいた。やがて劇団新派に入り、17歳で初舞台を踏んだ。先代である初代英太郎と女形の頂点を極め、新派史上2人目の人間国宝となった花柳章太郎の教えを受けて女形として成長して行った。しかし新派では女形の役者が少なく、なおかつ立場がだんだんと悪くなったことで、移籍の話もあったのだが、慰留された。初代英太郎没後、1973年に二代目英太郎を襲名した。女形としての芸域を広げ、なおかつ新派以外の俳優との共演も行い、新派女形の象徴として貫き続けた。

第三章「英太郎に捧げる言葉」

本章では逝去した後の追悼の言葉が綴られている。評論家、さらには池畑慎之介(ピーター、現:池畑慎之介☆)、十代目松本幸四郎などが名を連ねている。

第四章「これぞ新派女形の真骨頂! 英太郎の華舞台」

襲名や昇進などの節目となる公演、さらには演目の中では女形の真骨頂を見出すほどの特筆な公演を収録している。収録されている写真だけを見ても、女形としての矜持と幅の広さが良くわかる。

二代目英太郎の生涯は女形を貫き、なおかつ貪欲に研鑽し続けた生涯だった。英太郎逝去後は次々と名跡を襲名しているなど新風を吹き込んでいる状況であり、活況を呈している。その礎のなかに二代目英太郎の活躍がある。