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2021年8月

京都四条 月岡サヨの小鍋茶屋

本書は幕末の京を舞台にしている作品である。もっとも幕末の京というと、尊皇攘夷や倒幕を目指すべく、壬生浪士組、後の新撰組が結成した場所でもあり、政争の絶えない場所としても知られていた。さらには1867年には大政奉還が行われた場所(京都・二条城二の丸御殿)としても知られており、幕末の激動が色濃く表れていた。 その剣呑たる場所の中でほっとするような物語が本書である。清水寺に近い四条と呼ばれる場所にて、小 […]

お金のために働く必要がなくなったら、何をしますか?

もしも本書のタイトルのお題を私が問われたとしたのであれば、私は変わらず「働く」と答える。もっとも私自身はお金のために働く側面もあるのだが、それ以上に「愉しみ」で働くと言った側面もあり、お金が十分に得られたとしても、「愉しみ」が残っているため、働くことは変わりないためである。 さて本書の話に入るのだが、本書は「ベーシックインカム(最低限所得保障の一種)」についてである。実際に国によってはベーシックイ […]

四月のミ、七月のソ

本書は短編集であるのだが、韓国の日常を描いているのもあれば、人間的な悲しみやむなしさ、さらには生きている世界の残酷さを描いている。 母国でもある韓国の事情はもちろんのこと、著者自身イランを旅したなかで得てきたこともまた、短編集の中に収録されている。 叙情的でありつつ、寂寥感と言う言葉が似合うような物語が多くある。日本でも「諸行無常の響きあり」という平家物語で有名なフレーズがあるのだが、その「諸行無 […]

沢村栄治 裏切られたエース

プロ野球の賞の一つに「沢村賞」がある。これは先発投手の中で最も活躍した人に与えられる賞である。この「沢村」は本書で取り上げる沢村栄治からとられている。戦前のプロ野球界に燦然とした活躍をしながらも、大東亜戦争にて戦死した沢村。その沢村の野球観現在も行われているプロ野球(本書では「職業野球」と記載している)の初期の歴史を取り上げている。 第1章「沢村栄治と正力松太郎」 沢村は1917年三重県に生まれ、 […]

征服少女 AXIS girls

表紙だけをパッと見ると制服を着た少女たちが地球を征服するというイメージがある(ダジャレはさておき)。 しかし本書はSFの世界で、とある悪魔が地球を侵攻し、征服した。しかし数万年の時を経て、征服された人々とが地球を取り戻す、いわゆる「再征服」するために動き出すというものである。その征服についてメインとして動くのが本書の表紙に出ている8人の少女たちである。しかしそう考えるとなぜ表紙が「制服」を来ている […]

拡張するキュレーション 価値を生み出す技術

「キュレーション」と言う言葉を聞くと、どのようなものなのかと疑問にもつ人もいるかもしれない。悪い面で言うと2016年にDeNAのサイト「WELQ」の投稿を発端とした「キュレーションサイト問題」が記憶に新しい。そう考えるとキュレーションというと悪いイメージを持たれる方もいるかもしれない。 ただ、根源的に「キュレーション」とは何かというと「curation」という綴りであり、 テーマや特性などに基づい […]

革命キッズ

「革命」や「反体制」などにおける「運動」は今も昔も存在するのだが、かつては「1968」前後にあった学生運動や六十年安保などが大きくあり、その後にはベトナム戦争反対運動なども存在した。ここ最近では2015年安保などがあり、特にSEALDsの登場により、デモを含めた運動は盛んに行われてきた。 本書はその安保を含めた反対運動とは似ているのだが、架空の条約批准の賛成・反対が激しく対立していく中で、特に反対 […]

原子力の精神史 ――〈核〉と日本の現在地

今から10年前に起こった東日本大震災、そして福島第一原子力発電所事故から原発廃止に関しての議論が活発化したのだが、それ以前にも少なからずある。またそれとは別に「核武装」に関しての議論もあり、これは今もなお議論が続いている状況にある。 本書はその原発の議論の他にある「核武装」の議論は現在どこにあるのか、その現在地を探っている。 第1章「核時代を批判的に考察する六つの論点」 日本の周囲の国で言うと北朝 […]

異文化間教育

「教育」の考え方は変わっていくのだが、その変化の有りようは、今日の社会情勢をもとに反映される事例も少なくない。特にグローバル化が進んでおり、教育についても「異文化」の考えを取り入れるようなことも少なくない。 しかしながら、異文化との教育のあり方には根強い課題と論争が存在する。本書はパリ第8大学教授の観点から、学校における異文化間の教育の実践と、論理、さらには論争などを分析しつつ、これからの異文化間 […]

地べたを旅立つ 掃除機探偵の推理と冒険

本書の主人公は警察官だが、33歳と若い。しかもシングルファザーで小学5年生の子どもがいるという、いわゆる「なんじゃこりゃ」と言うような状況だが、実はここには家族・親族の悲しい背景があった。 見るからに荒唐無稽のような設定であるのだが、事情もありつつ、なおかつAIの技術が用いられており、奇想天外な「事件」へと発展して行く。ただ、この事件を紐解いていくと、なぜこのような奇妙な生活になったのかが良く分か […]