拡張するキュレーション 価値を生み出す技術

「キュレーション」と言う言葉を聞くと、どのようなものなのかと疑問にもつ人もいるかもしれない。悪い面で言うと2016年にDeNAのサイト「WELQ」の投稿を発端とした「キュレーションサイト問題」が記憶に新しい。そう考えるとキュレーションというと悪いイメージを持たれる方もいるかもしれない。

ただ、根源的に「キュレーション」とは何かというと「curation」という綴りであり、

テーマや特性などに基づいて,事物や情報を収集し選択・分類・提示し共有すること「大辞林 第四版」より

と表している。今となっては濁流の如く情報が飛び交い、玉石混淆とも呼ばれる情報の中で、先述にある「収集」「選択」「分類」をするのが難しくなってきている。そのために、まとめサイトなるものも出てきているのだが、なぜ「キュレーション」という技術は拡張し、実際にどのように使われてきているのか、そのことについて取り上げている。

第一章「「価値」のキュレーション」

本章では一例として「民藝」を取り上げている。東京の駒場東大前駅前のところに「日本民藝館」があり、そこでは伝統的工芸品が収集展示されている。この日本民藝館は今年の10月で開館してからちょうど85年を迎える。

その日本民藝館を開館した人物として柳宗悦(やなぎむねよし)という思想家がいたのだが、民芸運動にも積極的であった。

第二章「「文脈」のキュレーション」

今から15年前の2006年6月にフランス・パリに「ケ・ブランリ美術館」が開館した。ここはアフリカ・アジア・オセアニアをはじめ多くの地域から収集された美術品が30万点以上展示されている。しかしこの美術館設立までには激しい賛否両論があった。それを乗り越えての開館だった。またケ・ブランリ美術館には他の美術館では見られない展示方法も存在しており、それが新たなキュレーションとして扱われている。

第三章「「地域」のキュレーション」

アートは別に美術館や個展などの展示ばかりではない。地域そのものを「アート」にする動きもあった。本章では国内外の「地域アート」を取り上げている。また本章では昨今話題となった、ある「展示」についても取り上げている。

第四章「「境界」のキュレーション」

美術的に学んでいないと本章は難しい章である。というのは本章で取り上げられるのが「アウトサイダー・アート」と「インサイダー・アート」「アール・ブリュット」と呼ばれる要素が中心となっている。まずはそれぞれの原理を辞書で調べて行くと、美術の歴史に触れることができ、本章の部分もすんなりと入っていける。

第五章「「事故」のキュレーション」

事故・事件の現場を展示し、二度と同じような悲しみを味合わせないという意味合いもある。それを巡る旅行として「ダークツーリズム」も存在する。本章では歴史的な大震災の一つである1755年のリスボン大地震を取り上げている。もっともこの地震がきっかけとなり「地震学」が誕生したり、経済・哲学・国家とありとあらゆる角度において「近代」にあたる扉を開いたきっかけにもなった。

第六章「「食」のキュレーション」

「食」は歴史と共に変化しており、地域や国独特の「食」も存在している。また美術的な展示の中にも「食」をルーツにしたものがある。「ワイン展」もあれば、2015年に開催されたミラノ国際博覧会(ミラノ万博)もあり、本章にて取り上げている。

第七章「「国策」のキュレーション」

美術館や博覧会などの「展示」はあるのだが、それを「国策」として開催するといったことも少なくない。ドイツにしても、日本にしても、国を挙げて開催するようなこともあれば、世界遺産登録に向けて積極的に進める動きもまた存在する。しかしそれは良い所もあれば、原爆被害の象徴として、負の側面も伝えると言った役割もある。

元々美術館にはキュレーター(美術品の研究や収集、管理などを行う人のこと)がいるのだが、どちらかというと本書で表している「キュレーション」はこの美術にまつわることが中心となっている。しかしキュレーションをすることによって、美術品が多く世に伝わり、今日の美術史を写しだしている。美術品としての「価値」を生み出すことは情報の取捨選択の世界においてある種のヒントとなる。