向島・箱屋の新吉

江戸の向島にて箱屋をしている男が主人公で、そこにて出くわした事件を解決するために奔走する一冊である。そもそも箱屋とは、

1.箱を造り、またはそれを売る家。また、その人。
2.御座敷に出る芸妓に従って、箱に入れた三味線を持って行く男。はこまわし。はこもち。はこ。「広辞苑 第七版」より

とある。特に本書では2.の意味を指している。表紙にも男性が黒い長方形の荷物を持っているのだが、この中には三味線が入っている。ちなみに三味線は桐箱に入れられており、それを風呂敷で覆って持ち歩いている。

江戸時代の時代小説とミステリーが絡んでいる所にも斬新さがあるのだが、「箱屋」としての仕事も事細かに映し出され、なおかつ当時の向島は花街として知られているため芸妓や舞妓といった芸者たちも多くいた。その中でどのようにミステリーを描くかも難しい所だが、時代背景をとらえつつも、謎解きの深みもあるなど、両方の面白さを垣間見た一冊であった。