聞く技術 聞いてもらう技術

仕事を行っていく上で「聞く」ことはけっこうあるのだが、そもそも「聞く」ことは難しい。「聞く」と言うとなると、過去に何冊か取り上げたことがあるのだが「聴く」という「傾聴」のイメージが強くあるのだが、本書はそれとは異なる「聞く」である。なぜ「聞く」ことが重要なのか、そしてその技術をつけるにはどうしたら良いか、そのことを取り上げている。

第1章「なぜ聞けなくなるのか」

本書の冒頭に

「聴く」よりも「聞く」のほうが難しい。p.9より

とある。先ほど書いたがよく「聞く」に関する本は「傾聴」の傾向が強い。しかしこの「傾聴」は耳を傾けて聞く、だけでなく聞いた中での「真意」「気持ち」に触れるといういわゆる深読みに近い部分が入ってくる。その「深読み」が自身の価値観や観念も入ってしまうことにより、相手が発していたことを曲解してしまうようなこともある。

その一方で「聞く」は相手の主張や考えを「額面通りに受け止める」所がある。そこには聞く側の価値観や考え方は介入されない。

ではなぜ「難しい」のか。世相も絡めて取り上げている。

第2章「孤立から孤独へ」

そもそも「孤立」と「孤独」は異なっている。「孤立」は、

1.他から離れて一つだけ立っていること。
2.仲間がなく,一つだけで存在すること。

一方「孤独」は、

頼りになる人や心の通じあう人がなく,ひとりぼっちで,さびしい・こと(さま)いずれも「大辞林 第四版」より一部抜粋

とある。今回取り上げるうち「孤立」は辞書的な意味で「2.」にあたる。しかし辞書以外にも「孤独」と「孤立」の違いは色々とある。その「色々」とあるような部分を、本章では事例をもとに列挙している。

第3章「聞くことのちから、心配のちから」

「聞く」ことは相手に対しての考えを素直に受け止める。また相手を思いやる「“心配”機能」を高めることのも必要になる。当ブログにて何度も書いたのだが21世紀は「『心』の世紀」である。その「心」にまつわる病気や悩みが顕在化し、中には命を絶つ人も少なくない。その心を知り、気を配る機能が必要になってくる。特に複雑化し、なおかつ人と人との関係性が希薄化していく中で「聞く」ことはどれだけ力になるのか、そして「心配」もまたどれだけ力になるのか、カウンセリングの立場から説いている。

第4章「誰が聞くのか」

コミュニケーションは何も「対話」ばかりでは無い。しかし対話を行っていくと、平行線になったり、対立が深まってしまうといったマイナスの効果を生むこともある。従って対話などを通して「話せばわかる」のは本当のように見えて嘘の部分もある(もっともその原点の一つである五・一五事件もまた同じであるように)。

本章における「誰が」が重要であり、家族や仕事、あるいは政治などスケールの大小問わず「誰」の部分についてを問うている。

「聞く」と「聴く」は同じようでいて異なるという意見はコミュニケーションに関しての本ではよく目にする。しかしながら多くは「聴く」ことが難しく重要である、という主張がほとんどである。しかし本書は異なり、むしろ「聞く」ことが難しいとしている。それがいったいなぜ難しいのかを事例と共に取り上げると同時に、「聞く」ことの重要性と難しさを併せて気づかせられる一冊と言える。