宗教聖典を乱読する

今日では「キリスト教」「神道」「仏教」「イスラーム教」「ユダヤ教」「ヒンドゥー教」などの主要な宗教が存在しており、入信人口は少ないものの、ニッチな宗教も存在する。さらに宗教の中には「宗派」も存在しており、宗教と一括りにしても仕切れないほど幅広いものとなる。

幅広い中にも様々な聖書や聖典が存在しており、解説書も「宗教」という一ジャンルだけくくれるほど多く存在する。宗教によっては最近ビジネス書と絡めて紹介される本も出てきている。

一つの宗教にこだわるものもあるのだが、本書は仏教の住職が仏教を始め、様々な宗教の聖典を乱読し、分析をするという宗教書としては珍しいチャレンジを行っている。あらゆる聖典を乱読した結果、どのような考えに至ったのか、仏教の視点から、自らの乱読を省みたのが本書である。

第一講「ヒンドゥー教の聖典を読む」
インドを中心に布教されているヒンドゥー教は、7億人以上にも宗教人口がいる。インドそのものも世界第二位の人口を持っているため無理もないことだが。
ヒンドゥー教の聖典として「ヴェーダ」というのが存在しており、その中には「身体」と「精神」の関連性もあれば、インド特有の「カースト」との関わりについても取り上げている。

第二講「神道の祝詞を読む」
本書で取り上げる宗教は信者人口の多い、いわゆるメジャーなものを取り上げているが、神道は本書で取り上げる宗教の中では一番信者人口が少ない。というのも日本特有の宗教だからである。もっというと、はっきりと「神道を信仰している」と明言する人はもっと少ない。
そもそも神道は、生活や様式に根付いており、信仰している必要がないのかもしれない。
本章ではその神道のことについて祝詞を取り上げているのだが、多岐にわたるため、代表的なものとして「大祓詞(おおはらえのことば)」を取り上げている。

第三講「ユダヤ教の聖典を読む」
本章で取り上げる「ユダヤ教」は本書で取り上げる宗教の中では最古の宗教であり。始まりは紀元前1280年頃と言われている(モーセがヘブル人をエジプトから脱出させ、唯一神ヤハウェの契約を結んだことから)。
ユダヤ教の聖書として「旧約聖書」が挙げられるのだが、この呼び名は「キリスト教」によって呼ばれているものである。次章以降で取り上げる「キリスト教」や「イスラーム教」の原点にもなっている。
「十戒」とあるように、「戒律の宗教」として名高いユダヤ教には様々な行為規範があるのだが、本章ではユダヤ人とユダヤ教の関連性をもとに考察を行っている。

第四講「キリスト教の聖典を読む」
「ユダヤ教」から派生した「キリスト教」は、アメリカやヨーロッパを中心に世界各国に信仰者がおり、世界最大の宗教として挙げられている。キリスト教における聖典は2種類あり、ユダヤ教の聖典である「旧約聖書」と、キリスト教のみ使われる「新約聖書」がある。
ユダヤ教が「戒律の宗教」である殊に対し、キリスト教は「愛の宗教」と呼ばれているのだが、その所以として「新約聖書」がある。
キリスト教を取り巻くものとして「階級」や「全体主義」が生まれてきており、中世・近世の時代において、中心的な存在となり、現代思想でも影を落としている。
その要因を新約聖書の教えをもとに考察を行っている。

第五講「イスラームの聖典を読む」
国際的なニュースの中でイスラーム教を信仰いている国々の名前を聞かない日がない。イスラーム教の国々とアメリカなどのキリスト教を信仰している国々を中心とした対立もあれば、イスラーム教同士の対立も往々にして起こっている。
イスラーム教の聖典として「コーラン」があるのだが、日本では1950年に思想家である大川周明が「古蘭」として邦訳したのが始まりである。
本章では、コーランをもとにイスラーム教における習慣や社会との関わり、さらに宗派の変遷について取り上げている。

第六講「仏教の聖典を読む」
著者のホームグラウンドである仏教の聖典を紹介している。仏教の聖典といっても宗派によって「説法」や「お経」など異なる。本章では大きく分けて「大乗仏教」と「上座仏教」の違いについて代表的な聖典をもとに取り上げながら、仏教における現実も説明している。

本書は朝日新聞出版における「一冊の本」という雑誌の連載や講座をもとに収録されたものである。さらに深堀りして聞くと、そもそも仏教の住職がなぜ、他の宗教の本を取り上げようとしたのかが気になるところである。もしかしたら連載を依頼した方は「様々な宗教について「仏教」の観点からみてみたい」のか、「それぞれの宗教の違いを知りたい」のか、本書では読みとることができなかった。とはいえ、特定の宗教に従属している方が他の宗教をどのようにみているのか、と言うスタンスであれば、いろいろな宗教に携わっている人のインタビューをしたり、あるいは本書のように聖典を読むと、なかなかおもしろいのではないか、と思えてならない。それらの期待も含めて、ユニークな一冊である。

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