そうか、君は課長になったのか

WAVE出版様より献本御礼。
本書の冒頭に「課長受難」の時代であるという記述があった。バブル前後で社会人の価値観が大きく変わり「出世」をするという志向から、自分らしく働くという考えに変わってしまった。ましてや「出世」は自分のできることが制限されるところから忌避の対象にまでなってしまった。

しかしどのような事情や考えがあろうとも「出世」は避けて通れないものと言える。ジャーナリストの城繁幸氏が上梓された「7割は課長にさえなれません」というのがある。多くの企業人が課長にさえなれない状況の中で「課長」の役職は貴重な体験とも言えるが、部下の管理と自分の仕事で手いっぱいになってしまい、その役職につぶれてしまうケースも多い。

しかし、著者の佐々木氏に言わせれば、「課長ほどやりがいのある役職はない」という。
本書は架空の新任課長である石田に宛てた何通かの手紙という形で課長の良さ、そして自らの課長経験を語っている。

第1章「まずはじめに「志」をもちなさい」
課長という役職は、平社員と部長の間に挟まれた管理職であるが、平社員の中でもっとも距離の近い上司である。そのため、人生や仕事に置いて「師」となるということも少なくない。
そうなるための一つとして「志」を持てと言うのが本章のねらいである。子供は父親の背中を見て育つというが、上司が残業するな、効率的に仕事をやれと言われても、自分自身が実行しなければ意味がない(ましてや、上司と部下の信頼が薄れる可能性さえある)。
人を幸せにする、働ける愉しさがある雰囲気を作るのも課長の役目と言える。

第2章「課長になって2ヶ月でやるべきこと」
前任の課長から仕事や部下を引き継がれたとしても、すべてを鵜呑みにしてはいけないと言う。それ以上に自ら面談を行い、状況をしっかりと把握をする必要がある。自ら見聞きした事を確認し、認識をすること、時間厳守や信念の伝播を徹底させる事について書かれている。
最後に本章にある「面談」が本書の大きな鍵となる。

第3章「部下を動かす」
第2章の最後に「面談が本書を見る上で大きな鍵となる」といったが、これには大きな理由がある。それは課長と部下の距離をできるだけ近づかせるため、双方とも幸せに働く、そして部下を大きく育てるために「面談」をする。それは会社の場でも、酒の席でも構わないが、大事なことは「腹を割って話す」ことである。自分の選り好みで部下は選べないのだから、与えられた部下の中で自分はどのようにして部下を育てるかに「課長」の腕がかかっている。

第4章「社内政治に勝つ」
私はあまり「社内政治」という言葉はあまり好きではない。その駆け引きばかり行っていて、部下を育てるということを蔑ろにする人を見聞きしたことがある。
しかし部下の昇進をするために課長の一つ、もしくは二つ上の上司を味方につけることも一つの方法としてある。

第5章「自分を成長する」
自分の課の仕事を管理する上で「大局観」を身につけ、考える力を身につける。そして何よりも「自分らしく」することで成長をする糧とする。
本章では「多読」は頭を悪くすると言われているが、その傾向にある私にとって胸に突き刺さる思いだった。多読でも「自分で考える」クセをつけることを私自身、肝に銘じたい。

著者は課長時代に家族において様々な事が起こっている。長男の自閉症、妻の肝炎・うつ病による入退院の繰り返しと自殺未遂、その中で著者は効率性・生産性を自ら考え上げ、実行に移し、ほとんど定時で帰り、家事に仕事にと全力で突き進んだ時期があったという。「残業ゼロ」や「課長術」の本を私はいくつか読んだことがあるのだが、私は本書ほど「本物」と呼べるような本はないと思った。なぜならば必要性に迫られながらも、自ら築き上げてきたものによって、そしてそれを私たちの世代に手紙のようにアドバイスをくれたような気がしたからである。