人種主義の歴史

昨今では「ダイバーシティ」といった、人種や境遇などの「多様性」が受け入れられている時代であるが、中にはまだ人種主義の考えを持つ人・団体も残っている。人種主義の団体としてはアメリカの「クー・クラックス・クラン」、オーストラリアの政党である「ワン・ネイション」などが挙げられる。

人種差別の温床としてある「人種主義」は国家、人などが作られたときから存在しているのだが、実際にどのような人種主義があり、歴史を辿っていったのかを取り上げているのが本書である。

第一章「「他者」との遭遇―アメリカ世界からアフリカへ」

時代はコロンブスの活躍した大航海時代にまで遡る。15世紀から主にスペインやポルトガルが海を渡り、アメリカ・アフリカ・アジアの各大陸へと渡って言った。それ以前にも陸路における国際交流は進んでいたのだが、船舶の技術が生まれ、海を渡ってという意味合いが大きい。

ヨーロッパで栄えた文化・技術を伝来するのと引き換えに、その地域の資源を仕入れるといういわゆる「重商主義」もこの大航海時代にて行われた。と同時に人種主義の増長による、渡った先の地域での「植民地化」「奴隷化」といったことも起こった。

第二章「啓蒙の時代―平等と不平等の揺らぎ」

大航海時代を経て近代化され、さらに人そのものの地域によって言語・文化が異なっていることが分かり始めた。その時にある「分類」が行われるようになった。主にヨーロッパなどにいるコーカソイド、アジア大陸にいるモンゴロイド、そしてアフリカ大陸にいるネグロイドなど「人種」としての分類が行われるようになった。特に有名な人としては18~19世紀に活躍した人類学者ヨハン・フリードリヒ・ブルーメンバッハが1775年に人の分類として5種類に分類した論文がある。

第三章「科学と大衆化の一九世紀―可視化される「優劣」」

ブルーメンバッハの他にも、多かれ少なかれ分類を行った学者はいた。その一方で分類をしながらも、人種としての優劣を科学的につけるような学者も出てきた。ではどのように優劣を行ってきたのか、学者も含めて取り上げている。

第四章「ナショナリズムの時代―顕在化する差異と差別」

この人種による差別が、やがて国や民族における「差別」として挙げられるようになった。しかも学問としても「優生学」と呼ばれるものもでき、なおかつ1つ民族が優性と主張する「優生思想」も蔓延るようになった。

第五章「戦争の二〇世紀に」

そしてその優生思想は20世紀にさらに顕在化し、なおかつ迫害の道具にも使われ、なおかつ戦争の要素の一つにもなった。特に20世紀の中でも第二次世界大戦におけるナチスドイツはゲルマン民族を優生とし、ユダヤ人を迫害・虐殺したことはあまりにも有名である。

人種主義に関しての批判や廃止を訴える声があり、だんだんと薄れていっている。しかしながら「薄れている」だけで完全に無くなったわけで無く、冒頭にもあるように優生思想を持つ人・団体などはまだ残っている。もちろん国・境遇などにより人には様々な「差」があることは事実であるのだが、その「差」が歴史的にどう扱われてきたのかが本書にてよくわかる。