東京裁判への道1

本書は終戦からA級戦犯逮捕、そして東京裁判、そして判決までの過程を調書等をもとにして上・下の2部編成で書かれている。とは言っても東京裁判に関する文献は結構多く今年はそういう文献が出版されている。というのは今年の12月23日にはA級戦犯処刑執行60周年にあたる年である。実際東京裁判に関する文献を読みたいと思っていたのも今年であったというのは何たる偶然のことか。

まず上巻では木戸幸一の弁明、そして検事団と裏取引をした田中隆吉少将の告発に関して書かれていた。陸軍をはじめ多くの軍人はこの2人を蛇蝎のごとく嫌ったというのはあまりにも有名である。ちなみに田中隆吉の告発についても重光葵は短歌で表しながら批判しているくらいである。

ちなみに軍部がなぜ木戸幸一を嫌ったのかというと木戸自身の日記による告発よりも天皇を守っているという優越感による批判である。とりわけ巣鴨プリズンから東京裁判所へのバスにて佐藤賢了や橋本欣五郎らが罵倒していたことも有名である。それを考えると裁判で一切の沈黙を守った広田弘毅と正反対である。

ちなみに木戸自身は広田の裁判の姿勢に対して「立派なことだと思うが……つまらん事だと思うんだ」とも述べた。ちなみに広田弘毅の所で書いていなかったが広田の逮捕は近衛文麿の自殺と関連するという。本書でも第3章で書かれているが、近衛文麿は逮捕令が発布された10日後に服毒自殺している。

歴史に「もし」はタブーであるが、もし近衛文麿が生きていてかつ東京裁判に臨んでいたならばほぼ確実に死刑になっていただろう。広田弘毅が近衛文麿が行った所業一切を罪状にかけられたといってもいいくらいのものであるから。