オーケストラの経営学

小学5年の時から大学4年まで私の生活のなかで「音楽」は切っても切れないものだった。中学・高校と吹奏楽部に所属し、大学ではオーケストラに所属していたこともある。本書のオーケストラの経営に関しても人づてや文献からではあるが聞いたことがあったためすんなりと理解できる。

よくTVや演奏会で活躍しているオーケストラ、なれない人にとっては「敷居が高い」や「つまらない」という考えの人もいるかもしれない。本書は経営学でありながら、オーケストラの現状も事細かに書かれているため、オーケストラに興味を持っていない人でも、オーケストラとは何ぞやというのが理解でき、それに関して少しでも嗜んでいる人がいたら、オーケストラに関して新発見がある一冊である。

第一楽章「「のだめ効果」はあったのか 業界の特徴と規模」
2・3年前に「のだめカンタービレ」がドラマ化され、オーケストラが人気を吹き返したということがあった。昨今ではアニメ「けいおん!」効果で軽音楽部に所属する人が増えたという話もあれば、10年前にはTBS系ドラマ「L×I×V×E」が放映され、たちまち吹奏楽部の人口が上昇したというのもある。
オーケストラは国などの助成金から成り立っており、財政面では赤字でも運営することができるがこれは第三楽章に詳しく書かれているのでここでは割愛する。
本章ではオーケストラの基礎の基礎と言ったところであり、オーケストラとは一体何なのかというのを教えてくれる。

第二楽章「「音大生」の投資対効果 オーケストラの人々」
プロの演奏者となるには楽器によるが、代表的な例として本章ではヴァイオリン奏者になるまでの費用を紹介している。レッスンの費用、音大の学費、さらには楽器代と合計すると言えが1軒買えるほどの値段になる。ただしレッスンの費用はヴァイオリンばかりではなく、音感や音楽性を磨くためにソルフェージュやピアノも含まれている。
あくまでヴァイオリンを例に出しているが、楽器や音大によって差が出てくる。
レッスンを受けて音大まで進んだからと言ってプロになるとは限らず、稀少なケースではあるが音大を経ずに音楽家になった人もいる。
さらに本章では音楽家の懐や生活事情と言ったものも書かれている。

第三楽章「なぜ赤字なのに存続するのか オーケストラの会計学」
オーケストラは演奏、もっと有名なところで行けば演奏のCDやDVDを発売してその売り上げもある。しかしオーケストラの経営母体は様々であり、企業のスポンサーがついている団体から、地方公共団体の助成によって成り立っている団体、どちらの助成も受けない団体も存在する。
特に助成を受けない団体は最初に書かれているような演奏会やCD・DVDと言ったところしか稼ぎ口がないというのが現状である。当然演奏やレッスンと言ったものを引き受ける件数が増えるため、練習時間も減少、演奏の質が落ちるという悪循環に陥る。

第四楽章「オーケストラの経営戦略 外部マネジメント」
オーケストラと経営の理想、ひいては価値観の接点を探すのは非常に難しく、さらに言うと演奏家と観客の望んでいる者のギャップの差をどのようにして埋めるのかというのが分かるところである。
特に後者は厄介なものであり、観客寄りにして定番の曲、たとえばベートーヴェンの交響曲やドヴォルザークの「新世界」というような曲ばかり取り上げては、楽団としてのヴァリエーションも希薄になり、マンネリも起こる。反面様々な曲にチャレンジをすると、分からない観客が寄り付かなくなりこちらも良くない。
またオーケストラは曲によって演奏するパートの人手不足、もしくは音質の向上を考えてエキストラを補うということもあるため、経営にとっての「人件費」もバカにならない。

第五楽章「識者のリーダーシップ 小澤征爾かカラヤンか」
オーケストラの演奏で最も影響を及ぼすのが指揮者と言われている。日本にも名指揮者はおり、代表的なもので言うと小澤征爾、佐渡裕、西本智実、小林研一郎が挙げられる。
本章ではカラヤン、小澤だけではなく、トスカニーニやフルトヴェングラーも取り上げている。

第六楽章「世界的音楽家はいるのに日本に世界的オケがないわけ 内部マネジメント」
日本には数多くのオーケストラが存在するが、世界的に有名なオーケストラはどこかと言うと確かに答えに窮する。日本で有名なところはいずれも「日本では」有名なのだが、「世界」に目を向けると差ほど有名ではなく、ベルリンフィルやウィーンフィルなど世界をとどろかせる楽団の足元にも及ばないというのが悲しい現状である。ただし小澤征爾をはじめ個人の演奏者・指揮者で世界的に活躍している人は多数いる。
では何が不足しているのか。それはセルフマネジメント力にあると本書では力説している。

オーケストラの現状とオーケストラからみた経営学というのが良くわかる一冊である。オーケストラなどの音楽業界は他の業界とは違い特殊であると考えられるようだが、良く見てみると他の業界と通じている部分も大きいように思えた。