8月7日の立秋を前に九州や東北と言った所の「梅雨明け」が発表され、大冷害となった93年を除いて観測史上最も遅い「梅雨明け」となった。ちなみに93年は立秋が過ぎても梅雨明けにならず「梅雨明けなし」の地域が多く、各地で豪雨などの被害に遭い数多くの農作物に壊滅的な被害を与えた。とりわけ日本人の主食であるコメは記録的な凶作に見舞われ、タイや中国、インドからコメの輸入に頼る対策を実行せざるを得ない状況までに陥った。
今年はこれほどではないにしても、冷夏になることは間違いなく、コメなどの農作物がどれほどの凶作になるのかというのを注視していく必要がある。現にキャベツやレタスなどの野菜が高騰しており、2003年の冷夏に似た状況になっていることは間違いない。
少し話がはなれるが、解散総選挙で民主党が政権をとったとしても、自民党の勢いが増したとしても、年金や福祉もさることながら今年の農業政策をどうすべきかというのも課題の一つとして挙げられることだろう。
さて本書の話に移る。冷夏の時期とはいえど日本は安定的に農作物の生産が可能な地帯である。代表格としてコメは冷夏以外の時期でも毎年のように食べられる非常に安定したものである一方で、減反政策や農協における規制などにより生産ができない、さらに言うと就農人口も減少しているといわれている。安定的な気候である日本ではなぜ農業は衰退しているのか、その農業に活路はあるのか本書はこの悲観的な議論に一石を投じつつ、成長産業させるチャンスにあると主張している。
第1章「コメで国際戦略を描け」
日本においてコメは安定的に生産されており、豊作の時は生産過剰となり、一昨年には台湾や中国に輸出し富裕層に人気だというニュースもあった。しかし「100年に1度の恐慌」もあってか最近ではそういった話は聞かない。
日本で最も、かつ安定的に生産できるコメであるが国際戦略上では輸出することはほとんどない。その大きな要因として「関税」にある。日本ではコメを自国で生産をするという観点から関税率は778%もかけられる。そのため外国産のコメは輸出されにくい状況にあるが、日本のコメがいったん輸出するとなるとアメリカやオーストラリア、タイが関税を引き下げて輸入を自由化させるような圧力をかける。日本は輸出していることから飲まざるを得なくなり、安価な外国米が輸入され、日本の食卓、ひいては農業に甚大な影響を及ぼされる。
ここまでは私の考えであるがこれを乗り越えて戦略を立てられるかというのは政治的にも農政的にも極めて難しいと考えられる。
第2章「農業を成長産業にする条件とは」
農業は衰退の一途をたどっているが、衰退しきった中にも大きなチャンスは残されている。最近では農業に関する成功本が続々出始め、それに感化した人が就農をするという人も出てきている。さらに外食などの食品業界でも農業ビジネスに視線を向き始め農業はこれから成長産業の息吹を見せている。
しかしこの農業自体、「法」や「しがらみ」などの高い壁が立ちふさがれている。これについては第5・7章が詳しいためここでは割愛する。
第3章「農業が活性化するビジネスモデルを考える」
日本は「ものつくりの国」と言われて久しいが、そのものつくりの原点に挙げられるのが「農業」としてある。しかし農業は農地法の制定からビジネスモデルという概念が皆無となってしまい、ただ生産をするような状態に陥ってしまった。これもまた農業人口を減少させた要因の一つとされている。
「ビジネスモデル」と言うとビジネススクールで学ぶものであり、農業とは無縁なのではないかと考える人もいるようだが、最近の農業ではこの「ビジネスモデル」が重要な要素になりつつある。
第4章「農業への参入機会を国民全体に聞け」
先にも述べたが最近では農業への関心が高まっており、成功本でも農業関連のモノが出始め、個人での就農にも興味を示す人が増加し、企業においても農業に参入するところが増えたといっていい。企業参入のほとんどが中小企業であるが、大企業や急上昇企業も参入が著しいことから、これから農業はホットなものとなっていくが、
第5章「農地法という企業参入に立ちふさがる高い壁」
ホットになるにつれてこれまで放ったらかしにしていた法が大きな「壁」となって立ちはだかった。それは「農地法」である。この法律は今年の6月に改正され、今年中に施行される見通しであり、ようやく自給率向上に向けて本格的に動き出したのだが、これまでは農業生産を行わなくても自由に農地を借りることができた。
そのためある業者が農地を保有し、農作物を生産しないというような状況にもあった。それ以外の違法な利用や転用は罰則が設けられていたが名ばかりのものであり事実上黙認されていたことから参入の障壁となった一つとされている。
それだけではなく家族経営中心、言わば個人経営のみしか許されていないというのももう一つの壁としてあった。
第6章「内向きの農政で衰退する我が国のコメ産業」
農政はこれまで様々な施策をしてきたことであるが、いずれも農業発展につながるものと言えなかった。そればかりか外国からの輸入に依存してしまいいつしか食糧自給率がカロリーベースで40%までに落ち込んでしまった。
国際的には輸入自由化が進み国際的な競争が激しくなっている中、日本だけが国際的な農業戦略が立てられずにいる、さらには前述のようにコメにだけ関税をかける政策を行ってきたばかりに大幅な遅れをとった。農政はこれから進化しなければいけないのだが、日本独特の「族議員」特に「農政族」からの圧力は「道路族」と同じように激しいのが現状であり、これから政治的な施策をどのようにすべきかという見通しが立っていない。
第7章「政治に翻弄されてきた日本の農業」
農業政策は必ずと言ってもいいほど政権公約、言わば「マニフェスト」に挙げられる。まだ各党のマニフェストは拝見していないが、民主党は先ごろの参議院選挙を挙げてみると「バラマキ政策」とも言われるようなものであったことを覚えている。自民党もそれにやや近いものであったのだが、生活や福祉といったものがクローズアップされるが、それ以上に農業や憲法、国防や外交といった政策にも目を向けなければならない。
日本の農業は産業的にはホットなものとなりつつあるが、それを政治はどのように見ていくのか、どのような政策を立てていくのかというのに注目が集まる。これから衆議院総選挙だがその点も含めながら1票を投じたい。